第7話 妹アリスの誕生秘話

 夫婦生活のことか!

 俺たちの話には全く興味無いって感じだったのに、しっかり聞いてたんだな。

 アマゾネスでも、エッチとか恋バナとか気になるものなのか。

 その巨体とミスマッチ過ぎるが、女の子は女の子ってことなんだろう。


「本当ですよ。24歳で結婚して離婚するまでの10年は嫁だけでした」


「嘘じゃろお。それで二人も子を作るなどあり得んわい」

「いえ、この方は虚言をなしてはおりません」

 いや、どうしてそれが分かるんだ?

 異世界だけに何か超能力みたいなものがあるのかもしれん。

 マティルダさんは、フィジカルだけじゃなくメンタルも要チェックだわ。


「本当なんかあ・・・お前さん、どこかおかしいんじゃないか?」

 嫁さん一筋でクレイジー扱いされるとはな。

 改めて異世界に来てしまったと痛感させてくれる。

 

「俺は別に変じゃないさ。嫁だけ抱いて何が悪い」


「その通りです!」


 うおっ、肉体派メイドが凄い勢いで喰い付いてきた。

 もしかしてアマゾネスも一穴主義なのか。

 子種を貰う男に、それをいてるのかもしれんな。


「貴方はおかしくなどありません。むしろ素敵です」

 マティルダさんは頬を染めながら伏し目がちな顔をして俺を褒めた。

 そして、残り僅かになっていた俺のグラスにワインを注いで微笑する。


 普段は威圧感が凄くて直視できないけど、結構な美人だよな。

 似たタイプのカレンとの情交をつい思い出してしまった。

 そのせいで俺はアマゾネスメイドを意識し始めている。女として。


「ほ、気難しいマディに気に入られたようじゃの」

 そうだと有難いな。

 恋愛云々はさておき、今は一人でも味方が欲しい。

 それが国士無双の如きアマゾネスなら尚更だ。

 可能な限り仲良くしておくべきだろう。


「俺もマティルダさんのことが気に入りましたよ」

 ドクターにそう答えてから、隣にいる筋肉娘に笑顔を見せた。

 オッサンの俺ではなく少女みたいに可愛いロビンの笑顔だ。

 相当の効果があったらしく、マティルダさんはまた顔を赤くした。

 ふふふ、何だか楽しくなってきたな。

 照れるアマゾネスメイドとたわむれるのも悪くない。


 おっと、今はこんな恋愛ゲームをやってる場合じゃなかった。

 ロビンの家族構成をちゃんと把握しておかないと。


「ドクター、両親のことは分かったから姉妹の話を頼む」


「姉のアイリーンはさっき言った通りじゃ。学校以外では、外で絵を描いとるか家で本を読んどる。かなり内向的な性格じゃの」

「そうか。ロビンとの仲はどうだった?」

「良くも悪くもない感じじゃったわい。アイリーンは家族の誰にも無関心じゃったからのう。残念なことじゃが」

 まぁ、一人でいるのが好きな子供は割といるよな。

 人に興味が無いのなら、弟のロビンを殺す理由も無い筈だ。

 ただ、サイコパス的な存在という可能性もある。

 灯台の失踪事件もあるし、注意だけはしておく必要があるだろう。


「妹のアリスはどんな女の子なんだ?」


「一言で言えば、神に愛されとる子じゃよ」

「それはまた大袈裟だな」

「そうでもないぞ。父のマックスから明晰めいせきな頭脳を、母のキャシーから緑色の瞳と上品で優雅な精神を受け継いどる。それに容姿は両親以上に美しいからのお」

「へぇ、それはまた会うのが楽しみな妹君いもうとぎみだな」

「誰からも愛される天真爛漫てんしんらんまんな性格じゃ。絶対にお前さんも気に入るわい」

 何だかまるで天使みたいな女の子だな。


 ただ、そうなると姉のアイリーンは面白くないんじゃないか?

 いくら人に興味が無いと言っても、出来の良すぎる妹と比較され続けたら性格が歪んでしまっても不思議じゃない。その姉妹間の亀裂にロビンが落ちた・・・?


「アイリーンとアリスは不仲だったりしないか?」


 俺の言いたいことを察したドクターは、難しい顔をしながら答える。

「アイリーンは不憫な境遇じゃが、妹を苛めたりはしとらんし、アリスも姉に同情することはあっても、見下したりはしとらんようじゃ」

「それが事実だと願ってるよ」

「しかし本当に皮肉なもんじゃ。もしアイリーンが美人で社交的じゃったら、アリスは生まれとらんかったんじゃからのう」

「というと?」

「アイリーンに不安を感じた両親がワシに頼んできたんじゃよ。もう一人、子供が欲しいから協力してくれとな」

「協力と言っても子供なんてやってれば出来るだろ?」


「何を言うとるんじゃ。三人目になればその種付けが難しいんじゃろが」

 これはさっき言ってた男が飽きてしまうというやつか。

「俺にはその辺の事情が分からん。説明をお願いしたい」


「キャシーたちはもう二人子供を作っとったし、連れ添って8年ぐらい経っとった。愛情はまだ残っとっても欲情はできんようになっとったんじゃ。お互いにの」

 この世界の夫婦はそういうものなのか。

 これはもう文化が違うと割り切って納得するしかないだろう。

 まぁ日本でも長く夫婦をやってると、お互い異性ではなく家族になってしまって欲情できなくなる、なんて話をよく聞いたがな。


「ちなみに、ドクターはどんな処置をほどこしたんだ?」


「ま、あまり大きな声じゃ言えんが、薬とか、他にも色々との」

 媚薬か!

 この世界にはそんな危険ドラッグがあるのかよ。

 ロビン殺人事件が片付いたら詳しく聞きたいもんだ。

 『他にも色々』の部分もな。


「ありがとう。ロビンの家族の事はだいたい把握できたよ」

「いや、まだじゃ。モア家にはもう一人家族がおるわい」

「そうなのか」

「そりゃそうじゃろ。今までの話で終わったら五人家族になってしまうわ!」


 まさかの五人家族ディス!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る