第6話 自殺偽装殺人とカルチャーショック

 やっぱりロビンは殺されていたのか!

 それなら煉獄であれだけ怯えていたのも無理はない。

 しかし、一体誰が、何の為に?

 

 「ロビンが誰かに殺される心当たりはあるか?」


 「うーん、ワシには思い当たることはないのう」

 無いのかぁ。

 ちょっと期待したんだがな。

 しかし、それにしては変じゃないか。


 「それなら何故リンゴを調べたんだ?」

 

 ロビンの死に不審を持ったからじゃないのか。

 だからわざわざ歯形の照合までしたのだろ?


 「いや、事故現場には血の付いた大きな石が転がっとったんじゃが、木から落ちてその上に後頭部をぶつけるというのは、あまりにも出来過ぎに思えたんじゃ。それに、そもそもロビンは木に登ったり、リンゴをつまみ食いする様な性格じゃなかったしのう」

 確かに煉獄で見た限りではそんな風には見えなかったな。


 「それで念の為に調べてみたら、悪い予感が当たってしもうた」

 「なるほどな。どうやら殺人の線が濃厚のようだ」

 「残念じゃがワシもそう思わざるをえんわい」


 「となると、ロビンが蘇生したら犯人は焦るだろうな」


 「そうじゃの。ロビンが口を割る前にまた殺しに来る可能性もあるじゃろ」

 俺もそう思う。

 もし犯人が、ロビンに正体を知られているのなら、必ず何らかの動きを見せる筈だ。これでは迂闊にロビンの家に戻れないな。

 最悪の場合、家族かそれに近い人物が犯人で自宅が一番危険かもしれん。

 まずはそこを確認しないと。


 「ロビンの家族構成を正確に教えてくれないか?」


 「ほ、構わんぞ。まずさっきも言うたが、母親はキャサリン・モアじゃ。三人の子供の中でもロビンを特に溺愛できあいしとる」

 「ロビンが特別に愛される理由は何かな?」

 「さあのお。母親は娘より息子が好きなんじゃないかの?」

 「どうかな。人に寄ると思うが・・・」


 「それかアレかの。ロビンはあまり出来の良い子供じゃなかったでのう」

 「馬鹿な子ほど可愛いってやつか?」

 「決して馬鹿ではないんじゃが、おっちょこちょいで運動も苦手じゃった」

 ふむ。手がかかって親としてはつい構いたくなるタイプだな。

 溺愛ってのがどんなレベルか知らんが母親はシロか。

 犯人ならわざわざ医者のクラウリーに蘇生を頼まないだろうしな。


 「母親はもういい。父親はどんな男だ?」


 「父親のマクシミリアンは弁護士でベルディーン大学の教授じゃ。市長の相談役もやっとる。まあ切れ者と言ってええじゃろ」

 「・・・だが逆に、敵も多そうだな」

 「そうじゃのう。ねたみや逆恨みはされとるじゃろうなあ」


 「ロビンとの親子仲は良かったのか?」

 「悪くは無かったぞ。運動ができん分、勉強して弁護士か大学教授になるんじゃと、父親のマックスとよく一緒に勉強しとったからのお」

 そうか。父親にしてみれば大事な後継者な訳だ。

 となると、余程のことが無ければそんな息子に害意は持たんだろう。

 ただ、父親の敵がロビンに手をかけたという線はあるだろうな。

 あとは、自分の妻がその息子を溺愛という点が気になる。


 「マックスとキャサリンの夫婦仲はどうだった?」


 「それこそ良好じゃったわい。なにせ三人も子を作ったんじゃからのお」

 「この世界、いや、この国の常識は知らんが、子供が三人というのは珍しいのか?」

 「まあの。普通は一人か多くても二人じゃ。結婚しても子供が出来んせいで協議離婚する夫婦も珍しくないわい」

 「ほぅ、そういうものか」

 「お前さんの国じゃって似た様なもんじゃろ。男はどこでも一緒の筈じゃ」

 「んん? 男はどこも一緒というのはどういう意味なんだ?」

 

 「そりゃあ、男は同じ女が相手じゃと飽きて種付けできんよーなるじゃろ」

 えっ!?


 いや、確かに男にはそういう部分もあるけど、一穴主義の男だって結構いるぞ。

 それともこの世界は、男の生態が違うのか・・・

 「同じ女だと飽きる、と言ってもどのぐらいでの話なのかな?」


 「まあ三回がええところじゃろ」


 三回!


 三年の聞き間違いじゃなくて三回だと・・・?

 たった三回で同じ女とエッチできなくなったら結婚なんて無理だろぉ。

 一体どうなってるんだこの世界は?


 「三回で飽きてしまったら、夫婦生活なんていとなめないよな?」


 「その為の娼館じゃろが」

 そうきたかー。

 「娼婦で一度リフレッシュすれば、また妻ともできるわい」

 これがこの世界のリアルか・・・凄まじい夫婦生活だな。

 しかし、三回なんて新婚なら一晩でやっちまう回数だろうに。

 すると夫は毎日の様に娼館へ通うってことか?


 「お前さんだって結婚して二人も子がおったと言うとったじゃないか。娼館の世話にならなかったわけじゃあるまい?」

 「いや、俺は結婚している間は嫁さんとしかエッチしなかった」


 ガチャーン!


 うわっ、ビックリしたなあもう。

 歯形照合の報告をした後、またずっと黙って食事を続けていたマティルダさんが粗相そそうをした。

 肉を切っていたナイフが皿まで叩き割ったようだ。

 しかもそのナイフを持つ手がプルプルと震えている。正直怖い。


 「・・・本当ですか?」


 え、俺に問いかけてるのかな?

 いやでも何の事を言ってるのか分からんわ。

 俺がキョトンとしていると、アマゾネスメイドはもう一度訊いてきた。


 「その、結婚中は妻とだけ、というのは本当ですか?」

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