第5話 アマゾネスメイドとリンゴの謎

 この世界にはとんでもない生き物がいたもんだ。

 女子高生のカレンも大きかったがあんなもんじゃない。

 184センチあったカレンより軽く10センチは背が高い。

 そして何より筋肉が凄い。

 特に太ももなんてロビン(今は俺)のウエストぐらいある! 

 

 そんな熊のような女がどういう訳かメイド服を着ていた。

 当然ながら恐ろしく似合ってない。

 パンパンになっているコバルトブルーの布地が、今にも悲鳴を上げて裂けてしまいそうで直視できない恐ろしさがある。

 100人は殺してそうな女戦士が、何故こんな所でメイドをやってるんだ?

 一体彼女は何者なんだ?


「ドクター、このアマゾネスみたいな女性は誰なんだ?」

 女戦士メイドに聞こえない様に小声でいてみた。


「ほ、分かっとるじゃないか。アマゾネスのマティルダじゃよ」


 本物のアマゾネス!

 ちょっと言ってみただけなのにマジかっ。

 あぁ、俺って本当に異世界へ来ちまったんだなぁ・・・


「マディ、ロビンの蘇生じゃが半分成功したわい。夕食の準備を頼む」

「・・・かしこまりました」

 その肉体に全く似つかわしくない控えめな声で答え巨メイドは去っていった。

 蘇生が半分成功した、という言葉で全てを察したらしい。

 これまたその巨体に似合わない頭の回転の良さだった。



「ロビンの母親はどうしてドクターに蘇生を頼んだんだ?」

 夕食の席でそれとなくクラウリーとロビン一家の関係に探りを入れてみた。

「ロビンの母のキャサリン・モアとは昔からの知り合いじゃよ。ワシはモア一家のホームドクターをやっとったからの」

「じゃあロビンの家族のことには詳しいわけだ」

「まあの。じゃがアリスが生まれた後は暇を貰ったんでよく知らんがの」


「アリスというのは、つまり俺の妹か?」

「そうじゃ。今ではモア家の希望の星じゃよ」

「というと?」

「ロビンには姉のアイリーンもおるんじゃが、ちょっと変わり者でのお。一家の期待は全て末っ子のアリスに向かっとるんじゃ」

「アイリーンは問題児なのか?」


「問題児という程じゃあないと思うが、人付き合いが下手で一人で絵ばかり描いとるんじゃよ。そういえば少し前に事件に巻き込まれたこともあったのお」


 事件!

 もしかしてロビンがあんなに怯えていた事と関係があるかもしれん。

 ここは突っ込んで訊いておくべきだ。


「その事件というのは?」


「三ヵ月程前に、岬の灯台で失踪事件が起こったんじゃ。アイリーンはよく灯台の近くで絵を描いておった。事件当日もそうじゃったようで灯台へ続く一本道のかたわらに彼女のイーゼルや画材が残っとった。それで事件に関わりがあるんじゃないかと疑われたんじゃな」


「それで、どうなったんだ?」


「失踪した灯台守の三人は屈強な男じゃからの。16歳の華奢きゃしゃな女性にどうこう出来るわけないっちゅーことでおとがめはなかったんじゃが、彼女の証言があやふやでのお。何か知っとって隠しとるんじゃないかと今も噂されとるわい」


「アイリーンは何て言ってたんだ?」

「絵を描いとったら急に気分が悪くなったんで、画材はそのままにして身一つで家に帰ったと言っとるんじゃ」

「ふむ、だが一応それで筋は通るんじゃないか?」


「残していった画材の中には希少な絵の具がいくつもあっての。いくら気分が悪くなったからといっても、絵を描くのが大好きなアイリーンが置き去りにしていくのは、ワシでも変じゃと思うぞ。それに現場から消えたモノがあるんじゃ」


「何が消えたっていうんだ?」


「アイリーンが描いておった絵じゃよ」


「絵が消えた・・・?」

「高価な画材は全て残っとったのに、素人の描きかけの絵だけ持って行くなんて変じゃと思わんか?」


「つまり、その絵には見られたら不味いものが描かれてたってことか」


「そういうことじゃ。それこそアイリーンが何か目撃した証拠じゃろ」

「うーん、一概にそう決めつけるのもどうかと思うが・・・」

「そうじゃの。ただ、失踪事件の真相が判明せん限りアイリーンもいろいろ噂され続けるじゃろうのお。可哀想に」


 確かに奇妙な事件ではあるが、もしアイリーンが見てはいけないものを目撃してしまったのなら、危険なのは彼女自身だよな。ロビンは関係ないか・・・


「事件後、アイリーンの身に何か危険は無かったのか?」


「それをご両親も心配してしばらく護衛を付けたりしとったんじゃが、まったく何も起こらんかったわい。アイリーンも最近はまた一人で出歩いとるようじゃ」

 

 そうなのか。

 じゃあロビンが恐怖に震えていた原因はこれじゃないな。

 そうなると一体何に怯えていたんだろうなあ・・・?


「ドクター、ご報告があります」


 マティルダが喋った!

 これまで一言も話さず黙々と肉とスープを食べ続けていたのにな。

 一体このアマゾネスメイドが何を言いだすのか興味深々だったりする。

 

「ほ、何かの?」


「申し付けられていたリンゴの調査ですが歯形の照合が終わりました」


 リンゴ? 歯形? 何の話だ?


「リンゴに残された歯形はロビン・モアのものと一致しませんでした」


「な、何じゃと!?」

 クラウリーが珍しく興奮して声を荒げている。

 これは大変なことなのかもしれん。

 あっ、リンゴってのはロビンの遺体のそばに落ちていたやつか!

 そのリンゴに残ってる歯形がロビンのと違うってことは・・・


「つまり、どういうことなんだ?」

 頭の悪い俺はドクターに丸投げした。

 

かじりかけのリンゴが遺体のそばにあったから、ロビンは木から転落死したと判断されたんじゃよ」

「そのリンゴがロビンのものじゃないってことは・・・」

 他の誰かが転落死したように見せかけたってことか。

 そんなことをする理由は一つしかないよな。


「誰かが転落死に偽装したんじゃ・・・ロビンは殺されたのかもしれんのお」

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