第4話 ロビン衝撃の死因

「ロビン? おーロビン戻ったのか!?」

 俺よりもオッサン臭い声が鼓膜を鬱陶うっとうしく揺らしている。

「はぁ? 俺はあんな泣き虫小僧じゃなくて武者・・・あっ・・・」


「失敗じゃったか」


 バレた。

 そうだった。俺は今、ロビンの体に入ってる筈だもんな。

 異世界に転生、いや、転移、いや、憑依して2秒で即バレとは先が思いやられる。

 まあやっちまったものは仕方ない。とりあえず情報収集だ。

 俺は床に寝転がっていた体を起こす。

 板張りの床には魔法陣らしきものが白い線で描かれていた。

 目の前にいる初老の男は魔術師か何かなのか・・・


「あんた誰なんだ?」

「お前こそ誰じゃ?」

「確かに名前を聞くなら自分から名乗るのが礼儀だな。俺は武者野拓哉だ」

「ムシャールノ・・・何じゃッて?」

「ムシャかムーシャでいい」

「全く聞いたことない名前じゃの、よほど遠くの国か都市の人間みたいじゃな」

「ああ、恐らくあんたの想像より遥かに離れた所から俺は来た」


「ふぅ、またとんでもないのが釣れたもんじゃな。ワシはクラウリー。ドクター・クラウリーじゃ」

「ドクター? 医者か何かか?」

「まあそんなもんじゃ。お前さんは?」

「俺はサッカー選手だ」

「サッカー? 知らんのう。何をする仕事なんじゃ?」

「何をって・・・ボールを蹴ってゴールに入れる仕事・・・かな?」

「自分の仕事の事もよく分からんのか?こりゃほんまにハズレ引いたのう」


「釣れたとかハズレ引いたということは、やっぱりあんたが俺をここへ呼び出したんだな?」

「ワシが呼んだのはお前さんじゃなくてロビンじゃ。その体の主のな」

 ロビンはこの世界が死ぬほど怖くて戻ってくるのを拒んでいた。

 その原因が誰にあるのか分からない以上、余計なことは言わない方がいいだろう。今はまだ誰も信用できない。


「それは残念だったな。それでドクターはどうするつもりだ?」

「はぁ~、どうしたもんかのう。キャシーも死ぬ程絶望するじゃろうなあ」

「キャシーというのは、ロビンの母親か?」

「そうじゃよ。ロビンのことを溺愛できあいしとってな。それでワシに蘇生を依頼してきたんじゃ」 

 ふむ、そういう事情なら交渉できそうだな。


「よし、お前たち二人のために俺が何とかしてやろうじゃないか」

「何とかすると言っても、どうするつもりじゃ?」

「俺がこのままロビンとして家に帰ってやると言ってるんだよ」

「そんなもん直ぐにバレるじゃろが」

「そこは蘇生の際に支障が出たとか、死んだ時に頭を打って記憶が飛んだとか誤魔化せばいいだろ」


「おおそうじゃった。確かにロビンは頭を強打して亡くなっとるんじゃった」

「だったら丁度いいじゃないか。ちなみに、ロビンはどういう状況で死んだんだ?」

 煉獄れんごくでのあの怯えようだ。

 死因も尋常じゃないかもな。

 頭を強打とか下手したら『撲殺ぼくさつされた』まであるだろこれ。


「リンゴの木から落ちて死んだんじゃよ」


 事故死かーい!


 ロビ~ン・・・それはないだろお。

 そんな死に方じゃあ、お前の母親だって泣くに泣けないって。

 そりゃこの爺さんに蘇生してくれって泣きいれるって。


 いや待てよ、事故死とは限らないのか?

 誰かに突き落とされたってこともあるよな・・・


「それって事故だったのか?それとも誰かに落とされたのか?」

「事故じゃろうな。ロビンの遺体の横にかじりかけのリンゴが落ちとった。木の上に登ってリンゴをつまみ食いしとったら、足でも滑らせて落ちてしもうたんじゃろ」


 つまみ食いかー。

 なんかどんどん俺の中でロビン株が下がってくわ。

 煉獄では純粋で可哀想な少年という印象だったけど、ただの悪ガキだった可能性でてきたな。

 まあいい、とにかく頭を打ってたんならそれを利用させてもらおう。


「じゃあこれで決まりだな。頭を打った衝撃で記憶が飛んだことにしよう」

「でものう、キャシーをだますのは気が引けるのお・・・」

「もしかして爺さん、あんた子供を持ったことがないんじゃないか?」

「ほ、どうして分かったんじゃ?」


「分からいでか! あんたは子を失った直後の母親の気持ちがまるで分かってないんだよ」


「お前さんには分かるのか?」

「俺も二人の子を持つ親だったから察することぐらいはできる。いいか、今ロビンの母親はいっそ騙して欲しいと思ってるんだよ。嘘でもいいからロビンは生き返ったと言って欲しいんだよ!」

「そ、そういうものなんかのう」

「ああ、間違いない。だからこれはロビンの母の望みを叶える善行だ。人助けなんだ!」

「わ、分かったわい。ワシも腹をくくろう。キャシーのためにのう」


「よし、決まりだな。じゃあドクター、今後のことを相談しよう」

 俺は立ち上がってクラウリーと向き合う。

 おおっ、意外と大きな男だな。

 いや、違うか。

 俺が小さいんだ。

 煉獄で見たロビンは150センチ程度だったからな。

 ドクターは170ぐらいか。


「とりあえずめしにせんか。腹が減ったわい」

「異論はない。ご相伴しょうばんあずかろう」

 俺の返事を聞くとクラウリーは机の上にあったベルを振り鳴らした。

 すると10秒としない内にドアが開かれ巨大な人間が部屋に入ってきた。


「お呼びでしょうか」


 で、でかい・・・本当に女か・・・!?

 ていうか、本当に人間か・・・・・・ゴクリ

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