第2話 四級天使ルチアの絶賛キャンペーン!

「どこに向かってるんだ?」

 カトーの言葉が気になった俺は、天使とロビンに追いつくなり情報収集を開始した。

「どこにも。ただ歩くことが大事なのです」

「サッパリ意味が分からないんだが」

「煉獄の入り口であるこの荒野では、立ち止まっていては時が動かないのです。歩き彷徨さまよう苦行により次のステージへ進むことができます」

「苦行か、あとどのぐらい歩けばいいんだ?」

 !!!

 瞬きしている間に天使の顔が俺の目の前にあった。

 そして俺の目をじっと覗き込む。


「そうですね・・・ムーシャは既にかなりの苦行ポイントが溜まってるので数時間というところでしょう」


 苦行ポイント!


 あの世でも金がものを言うなんて話は聞いていたが、まさかポイント制とは思わなんだ。

「ねえねえ、僕は、僕は~?」

「ロビンは・・・頑張れば明日までには目標ポイント達成できるしょう」

「分かった。頑張る~」

 ロビンはとにかく元気だな。見ていてこっちまで元気が出てくる。

 何も無い荒野を歩くだけなんて文字通り苦行だが、ロビンがいればそんなに苦痛でもなさそうだ。


「ここで、そんなお二方に朗報があります」

 突然、天使が何か言い始めた。

「え、なになに~?」

 ふむ、確かにその朗報というのは気になる。


「ワタクシこと四級天使ルチアは、ただいま絶賛キャンペーン実施中なのです」


 絶賛キャンペーン!


 こいつ怪しい・・・カトーが油断するなと言っていたが、本当に要注意天使だな。


「今、私に付いて苦行をされる方には、なんとポイント二倍!」


 ポイント二倍!!


「やったー! 凄いよ! 二倍だよー!」

 ロビンは無邪気に喜んでいる。

 ルチアはそんなロビンに向かって天使のドヤ顔を見せていた。

 だが俺はだまされんぞ。絶対に何か裏がある。


「ルチア、話が上手すぎるな。何を隠している?」

「ムーシャ、さすがですね。そうです、これには条件があります」

「条件って、なになに~?」

「制限時間内に一定の距離を進むことです」

「つまり、休まずにどんどん歩けってことだな?」


「ご名答。そんなやる気満々のムーシャにはもう一つサービスしてあげましょう。制限時間は二つ設定します。最初の短い制限時間をクリアした場合は、さらにポイント二倍! つまり四倍!」


 ポイント四倍!!!

 だがもういちいち驚いてはやらん。

 お前が胡散臭い天使なのはカトーに言われずとも見え見えだからな。


「僕も僕も~」

「ロビン、最初の制限時間をクリアするには長時間走ることになるのですよ?」

「大丈夫、僕、走るのだけは慣れてるんだ」

 こんな華奢きゃしゃな女の子が自分で頑張ると言ってるんだ。

 分別ある大人としては、無茶だと止めるのではなく、できるところまで見守ってやるべきだろう。


「よし、じゃあロビンが先頭になって走ってくれ。ただし、自分のペースで無理せずにだぞ」

「分かったよー」

 元気よく返事をして走り始めるロビン。

 俺は少し離れたところを追走していく。

 ピッタリと後ろに付いて走ると、ロビンが無理をするかもしれないからな。


「しかし、本当にこんなことでポイントが早く貯まるのか?」

 なぜか俺と並走しているルチアに訊いてみた。

「もちろんです。この苦行は距離がものを言いますから」

 別に一緒に走らずとも飛べばいいと思うんだが、あえて口にはしない。

 天使の乳揺ちちゆれ、もとい、天使のランニング。

 こんなものはもう見る機会がないかもしれん。

 シッカリと目に焼き付けておこう。


「次のステージでは何が待ってるんだ?」

「まず宗教別に振り分けられた受付を済ませてもらいます」

「無宗教の俺はどうなる?」

「ムーシャもロビンと同じパルセノス教で受付をすればよいのです」

「そんな適当でいいのか?」

「問題ありません。どの宗教だろうと天国までの近道はありませんから一緒です」

「へぇ~、そういうもんか」

 

 走り始めてから1時間近く経った。

 なんとロビンはまだ一定のペースで走り続けている。

 凄いな。マラソンでもやってたんだろうか。驚きだ。

「女の子なのに本当に凄いな・・・」

 俺がそう漏らすと、ルチアがため息をついて訂正する。


「ロビンは男の子ですよ」


 えっっっ、嘘だろっ!?

 ぶっちゃけ俺の娘たちよりも余裕でカワイイぞ。

 髪は肩まで伸びてるし、服だってワンピースみたいなの着てるじゃないか。

 あ、別世界の人間だったな。

 ともかくロビンは、アニメイトの社員が言ってた男の娘ってやつだ。

 本当に実在したんだなあ。あのオタクにも見せてやりたかった・・・


 でも、本人に俺の勘違いを知られる前で良かった。さすがに傷つくだろうしな。

 それはさておき、あの世でも走れば疲れるんだな。

 正直に言って、ロビンより俺の方がかなりしんどくなってきてる。

 このケースは想定外だったな・・・どうしようか・・・


「ねえねえ、アレなーにー!?」

 俺が情けない思考をしていたら、前を走るロビンが前方に見える黒いものを指差して叫んだ。

 まぁ俺に分かるわけがない。

 隣のルチアに訊こうとして顔を向けると、いない!

 とっくにロビンが見つけた黒いものの前に移動していたのだ。

 そして今度はルチアの歓喜の叫びが聞こえてきた。


「こ、これは煉獄トンネル! ボーナスステージ来ましたわー!」

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