幕間 倉橋凛の憂鬱



「……むむむ」


 とある夜。

 黒髪を頭頂部で纏めた凜はマンションの自室でベッドに寝ころび、手に持った白色の折り畳みケータイと一人、唸りながら睨み合っていた。


「……なんでメール、帰ってこないんだろう……」


 その理由は簡単だった。虎鉄に送ったメールに、返信が無いのだ。


 この土日を利用して、初めて御祓いに向かうと言っていた。聞いた限りではそうそう怪我をするほどに危険な依頼ではないが、どうしても心配になった凜はついて行こうかと提案した。

 しかし結局『特訓』と言う言葉で断られていたのだ。

 あの時は確かにそれならば仕方ないと思ったが、後になれば吉春の勢いで誤魔化されたのではないかと言う疑念が否めない。


 結局虎鉄は何か他に理由があって、わざわざ御祓いに一人で向かったのだ。長年一緒にいた仲だ、何かを隠していることぐらいは凜も感づいていた。その何かは分からないが。


 だからこそ、虎鉄の身を案じてわざわざ心配する文面のメールを送ったのだが――――


「……あーもう! 見てないのかな! 見たならすぐ返してくれればいいのにぃ! ……リイン、とか言うのなら、見てるのかどうかだけでも分かるって、聞いたけど……」


 そう独り言を呟きながら、凜はため息を吐いた。

 自身が使うこのケータイでは、そう言ったアプリと言う物は使えないらしい。しかしスマートフォンに買い替えるのは、中々気が進まない事なのであった。


 昔から古風な実家、古風な習わしの中で育ってきたからか、凜は機械が苦手だった。今時の若者の生活と言う物を体験する為にも、現在はフローリングの部屋を借り、洋風な家具を揃えてはいるのだが、やはり10年以上続けていた住居との違いに、まだまだ慣れることは出来そうもない。


 陰陽寮で友達に勧められて、スマートフォンを触らせてもらったこともあるが、全く扱える気がしなかった。機能が多すぎて本当によく分からない。

 だから両親と共に買った、簡単に操作できる折り畳みケータイを使っているのだが――――このような状況だと、既読通知機能と言う物が途轍もなく羨ましく思えてしまう。


「……スマホ、挑戦してみようかな……いや無理かな……はぁ……」


 それでもやはり、今使っている端末のシンプルな操作は気に入っている。今更タッチパネルでの操作など、絶対無理だと半ば確信を持って言えるだろう。


「でも、やっぱ欲しいなぁ……虎鉄、何してるのかなぁ……」


 こうしてぐるぐると考えが回り続けている。

 そのうち凜は瞼を閉じて、うとうとと眠りについて行った。



 そして、夢の中に落ちて行く。

 何度も何度も見て、殆ど内容を覚えてしまった夢。

 幼馴染の彼が出て来る、あの夢の中へ――――


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