第6幕 神を蝕む悪意―3
木々が生い茂る、道なき道を進む虎鉄達。
森の中が純白の呪力に照らされ明るくなった事により、想像以上に早く山頂までたどり着くことが出来そうだ。
しかし、山頂に向かうにつれて、霧状に散らばった呪力の濃さが増して行く。
それは神が放つ物、そして赤い呪力に侵された、狼達の物もだった。
こちらの不穏な動きに気づいたのであろう、操られた狼達が邪魔者を排除すべく、こちらへと迫ってきているのが分かった。
「――――来るぞ! あの角付き達だ!!」
「わ、分かりました!!」
「主様よ、背中側は私に任せるのじゃ!」
そして、頭上を覆う草木が突如として揺れ、赤い角を持った狼たちの群れが、空中を駆けながら虎鉄達に襲い掛かって来た。
《急急如律令!!》
赤い軌跡を描きながら、高い雄たけびと共に飛び掛かって来る狼の群れ。
虎鉄は自身の白い呪力を纏わせながら祓魔刀を放ち、目の前に迫り来る狼の角を走り抜ける勢いのまま大きく横に薙ぎ、叩き割った。
「でぇぇぇりゃぁぁぁぁ!!!」
襲い来る狼は、恐らく元は頭上で咆哮する神の眷属。
突き刺された角を砕かれた狼は、血ではない赤い飛沫をまき散らしながら、空中へと溶けるように消えていく。
しかし今の虎鉄に迷いはない。災厄を止める為に、虎鉄は走り続ける。
狼の群れは尚も虎鉄達の近くを駆けながら追従し、押し寄せる波となって襲い来る。虎鉄は構えを解かぬよう走りながら二人と目を合わせ、自身の分かる範囲の情報と共に意思を伝えた。
「こいつらは角が弱点だ!! そこさえ砕けば消える!! 何とか道を切り開くぞ――――!!」
「言われんでも分かっておるわ! それに、そんな事をしなくても、私を脅かす敵ではないのじゃ!!」
「わ、私は、皆さんを守ります!! 《急急、如律令……!》」
背中側で妖狐の呪力が行使され、高周波と共に狼達を退けて行く。
同時に家原が虎鉄達の周りに白い結界を作り、ごく狭い範囲を覆う。
そして存分に白く輝く祓魔刀を振るい、前方の敵をなぎ倒しながら、虎鉄は走る。
数え切れない程の敵対者。
しかし強力な陣形を保った虎鉄達は突き抜ける一本の槍の如く、襲い来る狼の群の中を一直線に駆け抜ける。
そうして走り続けた先、舗装された山道に抜けると、遠くに先日も潜り抜けた、赤い鳥居が見えてきた。
「あっちだ! 行くぞ!!」
角を持った狼の群を背に階段を早足で駆け上がり、
頭上には先程恐れながらも見上げていた、純白の大狼が尚も雄たけびを上げながら、眷属と共に赤い呪力に抗っている姿が見える。
あの巨大な生物と呼べるのかさえも分からない存在をどう止めるのか。
虎鉄は一秒の逡巡の後、本殿へと向かい情報を集める事に決めた。
「よし、あの中に入るぞ! 御神体を調べれば、何か分かるかもしれない!!」
そうして叫んだ虎鉄の一声に家原が反応し、
「わ、私があの群れを止めます! 御門君達は、中へ!!」
「い、家原!? だめだ、置いてなんか行けない――――!!」
迫り来る群れに焦りながら叫ぶ虎鉄に、家原は背を向けたまま顔だけで振り返り、自信ありげな笑顔を以てそれに答えた。
「大丈夫です! 私は、結界術式だけは得意なんです――――! だから、早く行ってください!!」
虎鉄は一瞬だけ悩み、そしてその言葉を信じた。そこにいるのは強い意志を持った、一人の陰陽師なのだから。
「――――分かった……! 危なくなったら、すぐに逃げてくれ!! 絶対、絶対だからな!!」
そして家原を拝殿の外に残し、その中へと走り込んで行った。
「――――邪魔はさせない……! 誰も通しません!! 《急急如律令――――!!》」
背後から、家原の覚悟とも取れる声色で紡がれた呪文が、響き渡っていた。
◇
妖狐と共に駆けこんだ拝殿の中には、異様な空間が作り出されていた。
赤い呪力の残滓が点々と残る大きな部屋の天井は完全に崩壊し、頭上に苦しそうに暴れ回る純白の大狼の姿が見える。
それを覆い隠す様に白い結界が張られている。恐らく、家原が身命を賭して発動している物だろう。
昨日何となく見ていた数々の供物の全てが淡白い呪力を纏い、ぼんやりとした光を放っている。
乱雑に並べられていた筈のそれらは何かの作法に則ったかのように規則正しく円形に並べられており、まるで一種の祭壇を作り出していると表現できる光景だった。
視線の先にある、開け放たれた巨大な扉。更にその先にある、御神体を祀る本殿と思われるこじんまりとした部屋には、大量の赤と白が煙の様に充満しており、中を目視でまともに確認することが出来ない。
そして、その扉のすぐ手前には、白装束と貴金属で出来た謎の装飾に身を包み、金色の
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