幕間 座学授業・祓魔式について



 現代において妖を祓う為に用いられている技術の名前を『祓魔式ふつましき』と呼びます。

 

 祓魔式は技術全体を指す言葉であると共に、それを行使する際に必要となる文法の呼び方でもあります。



 呪力を空間に放出するたぐいの術であれば、基本的には自身で祓魔式を構築します。形や速さ、距離、対象、そして強さ等、体内から放出する呪力をどう扱うのかを頭の中で記述し、自身または触媒を通して体外へ放出します。 


 簡単に言うならば、頭でイメージした術を使えると言う事です。扱おうとする術に応じて個々人で得手不得手はありますし、当然戦いの最中にそのイメージが崩れてしまうと、祓魔式が上手く作用しません。術者本人の修練が必要とされる物とも言えます。



 逆に呪力を手元の物体に直接作用させる場合、対象物に祓魔式を刻み込む事が多いです。付呪や擬人式神などがこれに該当し、単純な祓魔式が記されている物体に呪力を流し込むだけなので、扱いが容易であることが特徴です。



 もちろんこれらには例外が存在します。


 妖に向け放出する際であっても、あえて周囲の物体や陣に祓魔式を刻み込む事で必要とされるイメージを簡略化したり、逆に習熟した陰陽師であれば、祓魔式を刻み込まずとも式神を思うがままに操ることも出来ます。



 つまり、祓魔式はイメージを具現化する為の手段であり、その文法自体が何か力を持っている物ではありません。


 それ故に、祓魔式を扱う際には言霊などの特殊な術を除き、主にイメージを補助する目的で『呪文』を用います。


 汎用的に使える呪文が『急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう』です。簡略化するならば『素早くこれを行え』という意味であり、どのような祓魔式にも用いることが出来ます。

 ただ習熟した陰陽師ならば、別の呪文を用いる事が多いです。その方がイメージしやすいからです。


 もちろんイメージを補助する為の方法としては、他にも印や陣など様々な物がありますので、各々得意な分野を生かせるよう、頑張ってくださいね。


 まとめると、祓魔式は、呪力に自身のイメージを反映させるための技術である、と説明できます。


 そして最後に。祓魔式は失われた『呪術じゅじゅつ』とは違い、きちんと体系化された技法です。正しく学び、正しく扱って下さい――――



 「――――時間ですね、今日の復習はここまで」


 妙齢の女性教師の号令と共に生徒達は立ち上がり、思い思いの昼休憩を過ごすために歩き出した。窓際の一番後ろ、黒髪の男子生徒を除いて――――



「終わったー……ふぁあ……ねむ…………」



 昨晩殆ど眠れていなかった彼は昼休憩に入ると同時に机に伏せ、夢を見る。いつかの平和な日常を思い出して。

 どこかから昼食を催促する鈴なり声が聞こえているが、彼の意識には届いていない様だった。


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