第2幕 式神契約―5



「成功じゃ成功! 初めてやったがなんとかなるもんじゃのう! やはり私は天才じゃあ!!」



 虎鉄は呆然とした。

 開いた口が塞がらない。脳が理解できない。


 先程まで死にかけていた幼馴染は、何を馬鹿なことを奇天烈な口調で叫びながら飛び跳ねているのだろうか?

 凜が生き返った安堵感と、唐突に訪れる不可解な展開に情報の処理が追いつかない。

 そもそもその口調は――――


「まさかお前、凜にのか!?」


「おぉ、主様! いつまで呆けておるのかとおもったぞ?」


「おぉ、じゃねえ! 答えろ!!」


「何をじゃ? せっかく小娘を生き返らしてやったというのに?」


 凛――――の姿をした妖狐が、至極不思議そうに虎鉄の問いに返した。

 これでは凜が生き返った。ではない。

 凜を勝手に妖狐が操り、動かしているだけだ。


 それならば凜の魂はどこへ――――

 虎鉄の脳内に最悪の考えが浮かぶ。


「お前、凜をどうした、凜はどうなった!!」


「主様よ、そう慌てるでないぞ?」


「どういう意味――――」


「よいっと」


 掛け声とともに再び力なく倒れる凜。咄嗟に虎鉄は凜の体を支えた。

 視線を戻すと、先程から凜に憑いていたと思われる白い妖狐が再びその姿を現していた。

 小柄な体がふわりと着地し、長い白髪が街灯と月明りを受け煌びやかに舞う。


「募る話はあとじゃあと。主様の住処へ案内せい」


「だからお前、凜をどうした――――」


「しつこいのう。何度も言わせるでないぞ? 私は小娘を生き返らしてやったのじゃ。もちろん死んどるわけがなかろうに?」


「それにこれだけの騒ぎを起こしたのじゃから見物人もあつまるじゃろう。主様も見られたいわけではなかろうて!」


「ほれ、案内せい」


 言い返そうとした言葉を虎鉄は飲み込んだ。

 虎鉄は凜の体を確かめる。

 抱えた華奢な体は羽のように軽い。

 だが肩を支える手には、彼女の息遣いと体温を確かに感じられる。

 無事である、と言う確信は無い――――だが、生きている。


 虎鉄は渋々と妖狐の言葉に頷き、凜の体を背に担ぎ歩き出した。


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