第2幕 式神契約―4



「これは対価。そして、主様を縛る、『枷』じゃ――――」




《シャリン》


「ぐっ―――――――!!」


 鈴の音が空間に響いた瞬間。

 突如始まる、途轍もない呪力の行使。

 先程は虎鉄が纏っていた、あの夜のあおの光が、虎鉄達、周囲一帯を包み込んだ。

 爆発にも似た衝撃が生まれ、虎鉄は辛うじて持ちこたえる。


《シャリン》


 閉じられた空間に、無数の鈴の音がこだまする。

 耳に突き刺さるほどの爆音――――同時に高まる青い呪力。

 妖狐は嗤ったまま、鈴を鳴らし続ける。

 妖の純粋な呪力が瞬く間に増幅し続け、今臨界点に達しようとしたその時――――



《          》



 唐突に、世界は無音になった。



 先程『青い世界』に囚われた時の感覚と似ている。



 違うのは一つだけ、今いるこの場所は、『白い世界』だ。



 呪力で覆われた、三人だけの小さな世界の中で、妖狐が呪文を唱えている。



《          》



 だがその声は、虎鉄の耳には届かない。



《          》



 妖狐が次の呪文を唱えた後、横たわっていた凜の体が宙に浮かび上がった。



 眠る様に死に行く幼馴染の姿。



 その胸元には、大きな、穴が開いて――――



「――――――――」



 その瞬間、虎鉄の心臓に何かが流れ込んだ。



 いや、心臓ではない。形容するならば、これは心、魂。



 魂が、虎鉄と、凜、そしていつの間にか嗤うのをやめていた妖狐。



 共鳴している。虎鉄は確信する。



 どんな祓魔式なのか、いや恐らく、呪術なのだろう。



 確かなつながりを得ている。



 虎鉄が無意識のうちに、目の前に浮かぶ凜に触れようとしたその瞬間―――――




 再度、世界が戻った。


 青い呪力は強烈な突風と共に霧散し、どこかへ消えていく。

 目の前の景色は変わらない。辺りに見えるのは、ごく普通の住宅街、街灯の灯るいつもの道。

 そして、頭を抑えつつ体を上げた幼馴染の姿が、そこにはあった。



「――――凜っ!!」



 虎鉄は凜の肩を持ち、顔を覗き込んだ。

 きょとんとした表情。虎鉄の眼差しをまっすぐに見つめていた。


 ――――ああ、よかった……!


 虎鉄は遂に泣きそうになったがすんでのところで堪えることが出来た。


「大丈夫か!? 俺の声が、聞こえるか? 苦しくないか?」


 返事は無いが、紛れもない事実。凜は生きている。

 肩に触れた手から伝わる体温。等間隔で鳴る、心臓の鼓動。その小さな口元から聞こえる、息遣い。

 凜は何度かあたりを見回した後、再度虎鉄に顔を向ける。




 そして、不意に――――――――




「やったのじゃ! 成功なのじゃあ!!!」


「――――――――は?」



 元気よく立ち上がり、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。


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