第2幕

第2幕 式神契約―1



 鬼は、困惑していた。

 突如現れたの存在。

 自らに立ち向かうものが放つ、異質な呪力。

 だが微塵も興味はない。目的を果たすために、邪魔になる存在はすべて排除するだけだ。


 それだけが、あの方に課せられた律令なのだから。





 虎鉄の手中、突き立てた剣を源とし湧き上がる青い呪力。


 妖が作り出した青い世界でなお、異質なあお

 それは瞬く間に肥大化し、莫大な呪力を虎鉄に注ぎ込む。

 自らを器とする力の奔流ほんりゅう

 覚醒した見鬼の才は、その全てを五感に伝えてくれる。


 それは虎鉄の持つ物とは明らかに違う、妖の呪力。

 異物を知覚した臓器が、拒否反応を起こすかのごとく痙攣する。

 それらを排除せんと作られた全身の熱を、青い呪力が持つ夜に似た冷たさが急速に抑え込み、背中側から放出させる。


 そうしてできた熱と呪力の混合物が、虎鉄の腰からの様な残像を作り出していた。



 異物を克服した全身に呪力が巡り、傷口を塞いでいく。消し飛んでいた左手さえも、いつの間にか存在を取り戻している。


 溢れんばかりの呪力の流入に遂に耐え切れなくなった虎鉄は、切っ先を体から抜き取った。



 右手に顕現けんげんしていたのは、青い刀。


 それを刀剣と呼ぶには、あまりにもいびつであった。


 切っ先は形をとどめず、呪力を放出しながら絶えず流動すると同時に、周りに漂う全ての呪力を刀身が凄まじい勢いで吸収し続けている。吸い込んだ呪力と呼応してか、鼓動を打つように常に小さく振動し、低い音を唸らせていた。

 例えるなら亡者の叫び、地獄の呼び声――――



「さあ行くのじゃ! 私の主様ぬしさまよ!」


「この程度の雑魚に手間取るでないぞ?」



 妖狐は尊大な態度を隠そうともせずわらっている。


 傷は治った。足も問題なく動くようだ。

 力を貰った。とてつもなく大きな物を。


 後は――――――――抗うだけだ。


 視線の先、巨躯の怪物に目掛けて、虎鉄は地を蹴った。


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