幕間 昔話―1



 昔あるところに、農家の夫婦ががいました。


 二人は子に恵まれず、日々山菜摘みの合間に山奥に建つ社で祈りを捧げ、子が出来ることを願っていました。


 いくばくか時が経った後、夫婦が何時もの様に社へ向かうと、どこからか赤子の鳴き声が聞こえました。

 声を頼りに境内の端、誰も通わないような木陰にひっそりと建てられた小さな石造りの摂社せっしゃに向かうと、その軒下で赤子の娘を見つけたのです。


 誰かに捨てられたのだろう。夫婦は正に神の御利益と、これ幸いに思い娘を連れ帰り、その日から大切に育てて行きました。


 拾われた娘は年が経つ毎に美しく、利発で、聡明そうめいに成長し、みすぼらしい小袖を着ていてさえも光輝燦爛こうきさんらんとした美貌を覗かせるほどでした。その噂はとどまることを知らず、村から村へ、村から都へ、そして皇室にまで広まって行きました。


 噂は遂に上皇様の耳にまで届き、娘は都に召し出されます。

 そして、そのまま側室へと身を置く事となり、上皇様の寵愛ちょうあいを一心に受ける様になるのでした。



 娘の名は『祝門院詞子しゅうもんいんのりこ』。

 後に上皇様の皇后となられたお方です。


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