1 白い少女の人探し(4)
二人は一階に降り立った。
交流館の一階、交流ホール。性別や学年、所属する科の違いを越えて、生徒が交流することを目的とする場所、らしい。
壁と床、照明の組み合わせは、ここも寮と同じ。少し小さめの、白い丸テーブルがいくつかと、その傍にだいたい四つずつ白い椅子が置かれている。
「ここでは、新入生の入寮開始日から毎日、生徒会主催の交流会をやってるんだ。部活とか、委員会とかの紹介や勧誘も兼ねてるみたい」
ほら、あの人が会長さん。木実はそう言って、一人の少女に目を向ける。
彼女は、肩を過ぎた辺りまでの長さの露草色の髪を一つに束ね、真っ赤な瞳を光らせた少女だ。肌の白さと吊り上がった眉と目、ぴくりともしない無表情が、冷たい印象を与えている。背丈は木実より少し低い。制服の組み合わせは白いブラウス、黒いセーター、黒いスラックスと革の紐靴。襟元の黒の紐タイは蝶結びだ。学年章はセーターの胸に、赤い硝子がはまっている。
彼女がこちらの目線に気付いたのか、早足で近づいてくる。澄と木実の目の前で止まると、口を開いた。
「こんにちは、君は確か、焔木実さんだったね」
「わ、覚えててくれたんですか?」
「人の名前は、忘れないように気をつけているから。……そちらの君も新入生だね」
彼女は無表情のまま、澄を真直ぐ見つめる。
「私は三年生の、
「一年生の見抜澄です。よろしくお願いします。……ええと、錵先輩とお呼びしてもいいですか?」
「……もちろん構わないけれど、なぜ?」
澄の申し出に、錵は僅かに眉を寄せる。澄は少し申し訳なさそうにしつつも、はっきりした発音で答えた。
「先輩は、紅蓮の名前が好きじゃなさそうだと思ったんです。さっき名乗るときも、少し言い淀んだような気がしましたし……。いきなり下の名前で呼ぶのも、少し気が引けたんですけど、本人に紹介されてもいない苗字で呼ぶのもおかしいでしょうから……」
紹介されてもいない苗字とはなんぞやと、木実は内心首を傾げる。錵はなにか気付くことがあったのか、少しだけ目を見張った。しかし、すぐ何かに気付いたように元の無表情に戻る。
「それなら、好きなように呼ぶといいよ」
「はい、錵先輩」
「じゃあ、私も錵先輩って呼んでいいですか?」
「ああ、構わないよ」
澄が頷くと、木実も笑いながら手を挙げる。錵はそれも快く了承した。
「さて、話を変えるけれど。今ここでは、部活や委員会の新入生向けオリエンテーションを開いている。今は占術研究会。明日の午前は植物管理委員会、午後は合唱部の予定だ。興味や暇があれば、参加してみてくれ」
「はい!」
錵の提案に、木実と錵は頷いた。
「では、私はそれぞれのテーブルを見回りにいくから。ここで失礼するよ」
錵はそう言うと、すぐに踵を帰して離れていく。そしてすぐ、あちこちのテーブルから声を掛けられ始める。書類を抱えた生徒が困り顔で駆けてきたり、通りすがった生徒が手を振ったりもする。彼女は無表情ではあるものの、それら全てに対応している。
「……かっこいいね、錵先輩」
木実が柔らかな声で言う。澄も静かに頷いた。
「さて、占術研のオリエンテーション、見てく?」
「ん……いや、いいかな。今日は図書館に行きたい」
「そっか。あたしも占術研はいいかな。それじゃ、図書館に向かおうか」
二人は交流館を出た。図書館は、寮や校舎の東側にある。
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