1 白い少女の人探し(3)

 交流館の三階には、少し小さなレクリエーションルームが並んでいる。

「いくつかの部活は、ここで活動してることもあるみたい。あと、部活以外でも、生徒同士の集まりにはどんどん使っていいみたいで、手続きも割と簡単なんだって」

 木実がそう説明する。澄は「へえ……」と頷きながら、しっかりと周囲を見回した。

 ここも、壁や床、扉や照明なんかは、寮と揃いの構成だ。扉につけられた金色のプレートも揃いで、その下に、利用されているかどうかを示すプレートも別についている。それが「空室」になっている部屋を、二人はそっと覗いた。

 いくつかの机と椅子が置いてあり、黒板がある。小さな教室のような趣だ。

「なんだかわくわくするね! どうやって手続きするんだろう?」

「この部屋を使いたいの?」

 木実の呟きに、誰かが後ろから答えた。二人は振り向く。

 そこには、一人の女子生徒が立っていた。髪は花のような紫色、腰まであるのを一本の太い三つ編みにし、黒い太めのカチューシャをつけている。瞳は薄く紫がかったピンク色、ぱっちりと大きいそれを、ラウンド型の眼鏡が覆っている。背丈は木実より若干低いが、そう変わらない。制服の組み合わせは、白いブラウスに黒いセーター、スカート、黒いハイソックスに、白いショートブーツ。襟元には白いリボンを青い硝子飾りで留めている。三日月のブローチは腰に、一番上の穴にはまった赤い石は三年生の証だ。左手には紫色の装飾がなされた一本の黒いハンドベル、右手には何冊かの薄い冊子を持っていた。

「あなたたち、新入生ね? レクリエーションルームを使いたいなら、一階の入り口のところで受け付けしてもらえるわ」

 彼女は微笑む。木実と澄は顔を見合わせると、彼女に向き直った木実が少し困ったような顔で問うた。

「え、ええと、ありがとうございます。あなたは?」

「ああ、突然話しかけてごめんなさいね。わたしは三年生の、ひびき和音かずねといいます。今から、その部屋を使うことになっているの」

 和音はゆっくりと頭を下げる。澄と木実もそれに合わせた。そして名乗ると、あわてて謝る。

「す、すみません、響先輩。あたしたち、この部屋が空いているみたいだったので、どうなっているのかなーって見ていたんです」

「ああ、そうだったの。こちらこそ、驚かせてごめんなさいね」

 上品な声で、わずかに柳眉を下げる。澄は首を横に振った。

「いえ、お邪魔したのはこちらですから。……では、これで失礼しますね」

 澄は木実に目配せする。そしてもう一度、二人で軽く頭を下げた。響は「良いのよ」と微笑むと、二人に手を振って部屋の中に入った。

 扉のプレートが「利用中」と変わる。それから、ハンドベルの冷たい音が幾度か鳴って……そしてすっかり、何も部屋から聞こえなくなった。

「……何か、変に静かだね?」

「そうだね。さっきの音、防音魔法の類だから」

 木実が首を傾げると、澄が少しだけ目を細めて言う。

「ふうん、そうなんだ……それじゃあ、下に行こう。次は交流ホールを紹介するからさ」

「うん、よろしくね」

 二人は連れ立って階段を下りていく。

「……そういえば澄ちゃん、その片方だけの眼鏡みたいなやつ、何? 何か特別な道具だったりするの?」

「え、ああ……これのこと?」

 木実の疑問に、澄はモノクルを指さして答える。

「これは、魔道具の一種で……私の魔力が過剰にはたらくのを抑えてくれるようになってるの。おばあ様に作ってもらったものなんだ」

 そう言って、澄は少しだけ寂しそうに微笑んだ。

「……そうなんだ」

「うん。本当はこれ無しでも、魔力を制御できるようになるといいんだけど……今はまだ難しくて」

「そっかあ……できるようになるといいね! あたしもさ、魔法のコントロール苦手なんだ。……どうにかするきっかけ、は、掴めたみたいなんだけど」

 そう言って木実は、キャンディ型のブローチを指で弾く。

「でも、いつまでも頼って、縋っていられるものでも、きっとないから。……一緒に頑張ろうね、澄ちゃん!」

 澄は静かに、しかし確かに頷く。

「ありがとう、木実ちゃん。これからよろしくね」

 二人はまた改め顔を見合わせ、笑った。

 モノクルとキャンディ型のブローチがきらりと光った。

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