朝の光は眩しくて:8

「親方ぁ! 銃弾の通りがいまいちでござるよぉ!」

「子供みたいに嘆かないのヴェル坊や。まずは翼を落としてあげるのがスマートでしょ?」

「ヘートヴィッヒの言うとおりだ。翼だ、まずはそこを穴だらけにしてやるといい。地に足着けたらとっておきを食らわせてやる」



 剣や盾を持つ守衛組と、迎撃を行う銃器持ち・魔術使い組の攻撃組に別れ混戦が行われている中、最初に動きがあったのは『バッドトラップ』の三人である。

 ライフルを持つヴェルナー、暗器として忍ばせていた拳銃二丁を持つヘートヴィッヒが、攻撃のために高度を低くしたモンスターの巨大な翼を執拗に狙い翼に穴を開けていく。耐えかねてモンスターが地面に足を着けた瞬間、手持ち大砲を持ったゲオルクが待ちかねたと言わんばかりにモンスターに至近距離で砲弾を撃ちこみ、まともに受けたモンスターはかすかに聞こえる悲鳴をあげながら吹き飛ばされていく。

 臨機応変に緻密な連携を取ることと、メンバー全員が銃器の扱いに長けているのが『バッドトラップ』の特徴だ。今回の迎撃作戦もそれが顕著に出ており、散発的な攻撃しかできていない調査隊の中でも確かな戦果をあげていた。



「モンスターの速度が思っていた以上に速いです! まずは翼を狙って動きを鈍くしてください!」

「8時方向、二匹」



 方円の中心では、モンスターの増援を警戒しているソーラ。そして音の探知によってモンスターの来る方向を指示するミウの二人で調査隊全体に指示出しをしている。ミウの360度全ての方向を正確に把握している様子に調査隊の面子も「頭の後ろに目があるのか」とでも言いたげであったが、それほどまでにミウの耳は優れているという証明であった。


 指示を受けて大きな動きを見せたのはドロシーとティスアである。防御用の近接槍を一旦背中にマウントして、まずドロシーは投擲用の槍を持ち出し、それを空に向かい投擲すると一発でモンスターの翼に槍が貫いた。



「投槍であの正確さとか常識的に考えられないわね!」

「『華槍隊』でもここまで出来るのは私含め数名ぐらいさ。銃器部隊のエリートにいい顔させたくないのでね」



 ドロシーが不敵に笑いながら、投槍によって飛行能力を阻害され高度を落としたモンスターに突撃する。背中の近接槍――厳密には長刀と呼ばれるそれを構え、それをモンスターの首元に突き刺す。血を吹き出しながらモンスターは絶命したようだ。



「トドメはあなたに任せてもいいかしら!」



 その様子を見てすかさずティスアがドロシーに声をあげる。ティスアは背中に矢筒を背負っており、その中にはクロスボウに使う太矢が多くストックされていた。ティスアは何本か太矢を手に持つと、それらが宙に浮き、まるでクロスボウで発射されたかのように高速で弾き飛ばされモンスターの翼を正確無比に穴だらけにした。ティスアは魔術念動によって太矢を飛ばしたのである。

 翼がボロボロになったモンスターが地面に落ちていく。言葉の意味を理解したドロシーはそのモンスターにまた突撃し、同じように首元に槍を一突き。二匹目を倒すとティスアに向いて「この流れでいける」と言う意思を頷きで伝える。


 『バッドトラップ』の面々と、ティスアとドロシーの連携による撃破劇を見ていた調査隊メンバーもやり方というものをある程度理解できたようだった。銃器持ちが翼を集中砲火し、魔術使いが魔術念動で砂を巻き上げ目を潰し。高度を低くしたモンスターたちを剣や槍持ちが囲んで殴り、モンスターを着々と倒していく。

 隠密状態による奇襲を得意とするモンスターたちであったが、その奇襲戦法がいの一番に対策されてしまった以上、モンスターたちの敗北は決まっていたのかもしれない。


 既に10匹中6匹が倒され、戦況が調査隊側の有利に傾いているのは明白な中。ミウの耳に誰かしらの慟哭の声が聞こえた。



「おいダッチ! クソ! どうしやがった!! いい加減にしねぇと俺だけで逃げるぞ!!」



 調査隊の一人の冒険者が倒れてしまった冒険者を庇いながらモンスターを迎撃していた。しかしその倒れてしまった盾持ちの冒険者の様子がおかしいのか、庇っていた剣持ちの冒険者が肩を貸そうとしてもうまく歩けない様子である。当然隙だらけの二人をモンスターが見過ごすわけもなく、モンスターが背中を向けている冒険者に噛み付こうと牙をむき出しにして飛びかかろうとしている最中であった。


 そういえば最初に無粋な噂をしていた二人だったかな、と声で思い出しながら。ミウは方円の中心から飛び出し、その場から姿を消した。ゲオルクとドロシーは一瞬でミウが姿を消したことにぎょっとした顔をしながら。気がついた時にはミウは襲われかけていた冒険者二人とモンスターの間に塞がるように飛び込んでいた。


 二人の冒険者の目にはいつの間にかミウの背中がそこにあったが、それ以降のミウの行動は視認できなかった。剣を抜く時間もない、と判断したミウは身体強化で身体の筋力を増強し、亜音速の速度でモンスターを蹴り抜いた。

 蹴飛ばされたモンスターの顔面はその顔だけがちぎれ、ボールのように吹き飛ぶ。首と別れたモンスターの胴体は力なくその場で倒れ伏し、モンスターが蹴り一つで絶命したことをソーラの目は見ていた。



「怪我はない?」

「あ、ああ……お、おい嬢ちゃん。一体今なにしやがってたんだ……!?」

「御託はいいから。早くその人保護して。理由は知らないけど呼吸困難になってる」



 涼しい顔で振り向くミウに、冒険者はある意味モンスター以上に恐怖しながら、足早に倒れた冒険者の仲間を担いでその場を離れていく。

 それを見て動こうとしたのはモンスターも同じだったようだ。



「ミウ! 残りが逃げる!」



 残り三匹となったモンスターたちが、隠しきれぬ動揺をしたまま翼を広げて一目散に逃げようとしている。



「増援を呼ぶ気か? まずい、今のうちに私達も――」



 ドロシーがそれを呟き切る前に、衝撃的な光景が調査隊たちの目に焼き付けられた。何かが風を切り、空を横切ったかと思った。そして直後、モンスターたちは悲鳴をあげる時間すらないまま空に飛んでいる状態で身体が二つに両断され、重力に従って地面に落ちていったのである。

 空に残ったのは、サムライブレードを持ち空を飛んでいるミウの姿だけであった。



「隙だらけ。斬ってくださいって言ってるのと同じ」



 モンスターたちもまさか亜音速の速度で後ろを取られ空の中で斬られるとは思ってもみなかったであろう。それはソーラとティスア以外の調査隊たちも同じで、今この瞬間、ミウが何をしたか理解が遅れてしまいあっけにとられていたのだから。



「ねぇね、増援は来そう?」

「ううん。特になにも。しばらく大丈夫だと思う」

「ならひとまず終わり。――負傷した人たちを早く診てあげて。呼吸音がおかしいから」



 迎撃戦のあっけなさ過ぎる終わりに若干放心していた軍医が、その言葉にはっとした様子で負傷した調査隊メンバーの容体を、全員が聞こえる声量で報告した。



「呼吸困難に吐き気の症状が収まりません! 毒を吸った可能性があります!」



 モンスターの脅威はモンスターが倒された後も残っている様子であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る