朝の光は眩しくて:3
個室で席に着いたガルネリウス、それにマダムとソーラ、ミウの四人。スピカはと言うと貴族様のお忍びのご来訪ということで個室の外で若干挙動不審気味に見張りをしている。
席に着いたガルネリウスの開口一番は予想できないものだった。
「此度の武功、思わぬ形で民衆に伝わってしまったことを謝りたい。こちらも気を遣うべきだった。結果的に、君たちの手柄を横取りする形となってしまった」
貴族でもないソーラとミウに深々と陳謝したガルネリウスに、ソーラは畏れ多い気持ちで直後に「こちらこそすいません!」と何故か謝り返してしまった。ミウはこの切り出しをある程度予想していたのか、「私達は気にしていません」と形式的に返答する。形式的だけではなく本音でもあるが。
「寛大な許容に感謝しよう」と演技がかったセリフでガルネリウスは話を続ける。
「最初に言っておくと、ヴァリウスは実直かつ綿密に君たちの活躍を報告してくれた。このことは彼の名誉のために把握しておいてほしい。とはいえ、彼の報告はどうにも実直過ぎてね」
「『事実確認が必要』なんて言い草で、公式な記録には出来ないと軍部に話を蹴飛ばされたかい」
「仰るとおりです、マダム・フローレンス。ほぼ活動記録も出ていない無名の、という部分で訝しげな顔をされてしまった。あいにくヴァリウスは酒精(アルコール)中毒や流行りの薬物中毒に侵されるような男ではないとよく知られていてね。結果として、ソーラ君とミウ君の戦果は確認必須の非公式として、表に出ないものとなった」
マダムの言葉にガルネリウスは頷いて、事の顛末を完結に言いまとめる。大規模な戦場においては非公式戦果というのは少ない話ではない。が、それらは元々高名である冒険者や軍人の箔付けのようなものであり、戦果の有無が重要視される冒険者にこのような処置は異例とも言える。それほどまでに、ソーラとミウの戦果は異例かつ異常と言えた。誠実な男の幻覚であるかもしれないと心配されてしまう程には。
「仕事でミスをしちゃってたから……というわけではないんですね」
「ああ、こちらのミスと言ってしまおう。ヴァリウスは本当に誠実な男でね。此度のリーズデビル群討伐の成果を『剣子隊と冒険者の協力による』ではなく『冒険者二人による』と率直に報告してしまった。幼馴染としては実にいい男だが、仕事仲間としては機転の利かなさが玉に瑕でね」
エッジの効いたディスをするな、とミウは内心ツッコむが、幼馴染と聞いてなんとなく二人の関係性を察知する。親密な関係性であるが故の軽口ということなのだろうと。
それと同時に疑問点を浮かべたミウは手をあげてガルネリウスに遠慮もなく質問を切り出す。
「子爵様は、今回の話を信じてるの?」
「ああ、当然」
ミウの質問に食い気味とさえ思える早さでガルネリウスは返事をした。
「彼は嘘をつかない。だから私は副隊長に彼を置いている。――加えて、君の実力の片鱗は見せつけられている身だ」
「やっぱり、先日のジェヴォーダンの討伐もミウの仕業かい」
「肯定です。故に、今回で戦果の横取りは二回目なのですよ。これでは謝罪の言葉も必要というものだ」
「あー……そういうことだったんだ。ミウが助けられたってわけじゃなかったんだね」
マダムは既に理解していたような様子で、ソーラはやっと合点がいった様子で先日のジェヴォーダンの討伐後の様子を思い出す。
ジェヴォーダンの死体は首と胴体が別れており、鋭い刃物で斬られたそれは、胴体にまったく傷がない状態で運ばれていた。相手の反撃を全く許さず、一撃でモンスターを絶命させた、という推測ができる。冷静に状況を分析できる人物ならば「本来ありえない倒され方をしている」と意見が合致するのだ。帝都の軍人が使う剣は打撃を与えるための得物であり、ジェヴォーダンの巨体の首を掻っ切るほどの鋭さを持たないのだから。
「彼女が乗る馬車がジェヴォーダンと鉢合わせしていてね。野外訓練を終えた私は丁度通ったので助太刀をするつもりだったが――気がついた時にはジェヴォーダンが既に殺されていてね」
「面倒だから私が斬った。変に話題になると騒ぎに巻き込まれると思うから、戦果を全部子爵様に擦り付けたの」
「既に終わった話だがね」と閑話を終いにし、ガルネリウスはスンと話を切り上げて二人を見る。今までが挨拶代わりの謝罪会見とすれば、ここからは本格的な仕事と話となることは雰囲気で察知できた。
「ここからは仕事の話をしよう。君たちの強さは今では私達しか知る由もない。故に、私から君たちの実力を評価し、仕事を任せたいと思う。まず――」
ガルネリウスは若干緊迫した空気を醸し出しつつ二人へ質問。この質問こそが、ガルネリウスが二人に話を持ちだした理由だった。
「君たちに問いたい。先日のモンスター襲撃の件、終息したと思うかい?」
マダムがその質問にかすかに眉間を動かし、興味深いことを聞く態勢になる。その質問に迷わず返答したのはソーラだ。
「終わってません。飛行型モンスターは『先遣部隊』だと思います」
ソーラのその言葉に、ガルネリウスは驚きもせず、予定調和であったように話を続ける。お互いの見識をすり合わせることが目的であると理解できる。
「ソーラ君。その理由を理論的に説明は可能かな?」
「経験則、です。私たちの村がリーズデビルに襲われた時も、三日後ぐらいに超大型モンスターが出現したんです。特にリーズデビルは他のモンスターと連携して動くことが多くて」
「今回の件もそうなるだろうね。帝都の近くに出現したリーズデビルの群れ、そしてサンダーバード。その別方向には山地に潜伏していたリーズデビルの別働隊。これらは連携し、帝都の方向に移動していた、というのが今回の件の真相だが。であれば、サンダーバードが首領格と認識していいのかい?」
「その線は薄いと思う」
サンダーバードがボスという仮説を否定したのはミウである。ガルネリウスは「続けて欲しい」とミウの発言を促した。
「私達の村の時も、サンダーバードが先に顔を出してた。その後にやってきたボス格は、もっと大きかった」
「どのようなモンスターだったかな?」
「多分、未確認。村の人たちは『ピアサ』って呼んだけど」
「色んな色のウロコを持った、角の生えた鳥、のようなモンスターでした。山と山の間を飛行してきたんです。大きさは、帝都の城より少し大きいぐらい。多分、冬眠してたんだろうって、村のばあばは言ってました」
それを聞いたマダムとガルネリウスは、さすがに表情を少し変えた。帝都の城より巨大なモンスターなど、水棲モンスター以外には聞いたことがないからだ。それが飛行してくるなどさらに驚異的である。しかし、だからこそ二人はさらに訝しんだ。そのような報告があれば嫌でも耳に入るはずなのだが、そういったモンスターが出没したという情報は皆無だったことである。だからこそガルネリウスは確認したかった。
「そのようなモンスターの報告例は存在していない。何より、そのようなモンスターが飛んでくるだけで君たちの村は壊滅的な被害を受けるはずだ。そのモンスターはどうなったんだい?」
ミウは間髪入れずに、当たり前の事実を話すような口調で答えた。
「飛んでいるピアサを
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