朝の光は眩しくて:1

 その日、帝都は朝から熱と活気に溢れていた。帝都は露天屋台が大量に立ち並び、祭りが行われている。


 帝都全体がこのような熱気に包まれるパターンは限られている。王族の記念日か。年末年始か。新しい貴族の誕生か。あるいは、冒険者や軍隊が大規模なモンスター討伐作戦を成功させたか。

 今日のパターンは四つ目のパターンのようだ。このような祭りは「武威祭(ぶいさい)」と呼ばれ、大衆はこぞって功労者たちにブイサインを送り武功を讃えるのである。


 三日前に行われた緊急の飛行型モンスターの大群の迎撃作戦は、急を要したものの、軍部とガルネリウス子爵らの武闘派貴族による冷静かつ迅速な対応によって被害少なく作戦が成功。特に今回は久方ぶりに帝都近くが戦地となったこともあり、帝都の人々が作戦に参加した軍隊や冒険者らを讃える声は声高であった。



「今回は百を超えるジャージーデビルが襲撃してきたようだったし、ほんとに危なかったもんなぁ!」

「なにせボスはあのサンダーバードだ! 見たか広場で晒されたあの身体! 王城も吹き飛ばすなんて噂も本当だったかもな!」

「それをガルネリウス子爵様が最後には翼を斬ったってんだから、やっぱり『救国剣子』様は格が違うねぇ」

「子爵様の別働隊が陽動で動いてた群れを一日でやっつけちまったらしいし、剣子隊も子爵様の名前に負けてねぇな!」



 公衆が特に話題にあげていたのはサンダーバードと呼ばれる超大型モンスターが討伐されたことで話題にあがっている。討伐隊によって運びだされたサンダーバードの死体は討伐隊の武勲をこれでもかと示すのに困らず、討伐の主な主導をしていたガルネリウス子爵の名前は、先日のジェヴォーダン討伐の件もありうなぎ登りに評判があがっていった。

 噂ではこの件でガルネリウス子爵が伯爵の爵位を授かるのでは、という話も熱を持って伝わり、帝都ではすっかりそれの先祝いのムードで祭りが行われていた。


 それは、帝都の空で小さな少女が高速で空を飛んでいることに気づかないほどに、大衆は祭りに夢中であった。

 同じく、王城のてっぺん、帝都で一番高い屋根で立つ少女にも気づかないほど。



「ミウから距離800m、方向は2時ぐらい、かな? 屋根の上! 屋台の屋根から屋根に伝ってる!」

≪なんで逃げるのかな。何かに釣られてる?≫

「宝石に似た輝いてる物とかによくついていっちゃうみたいだけど、なんだろう、焦って闇雲に走ってる気がする」



 一番高い屋根の上にいるのは、帝都中を文字通り見渡しているソーラ。そして飛行し指示を受けているのはミウだ。


 ソーラの視線の先、追いかけているのは小さな動物。額に赤い宝石が埋め込まれているのが特徴な、小さなリスのような小動物。一応モンスターとして区分されているカーバンクルという生物だ。最も人を襲うモンスターと違い、草食で人を襲わない一部のモンスターは愛玩用として貴族などのお金持ちのペットとして飼われている。


 ソーラとミウは、帝都が祭騒ぎな中でもお構い無く、公職冒険者として仕事を全うしている最中である。今回の仕事はペット探し。昨日から行方不明になったペットを探して欲しいという仕事だった。

 本当に仕事がないような冒険者でもなければ受けないペット探しである。さらに報酬も危険度皆無なのでお安い。一応モンスターが捜索対象ということで冒険者にお鉢が回るが、今日のように祭騒ぎで、加えて冒険者が多く作戦に駆りだされた今では多くの冒険者パーティがおやすみムードで稼働していない。

 経緯は様々なれど、そういう「放置されてしまう仕事」を最後に片付けていくのも公職冒険者の仕事である。詰まるところ、貧乏クジのお片づけだ。


 最も、「こんなお祭りの日に」「こんな誰もやらないような安い」という文句も出がちな仕事も、元々お祭り騒ぎにそこまで興味がなく、どのような仕事に対して真面目な二人にとっては関係のない話だ。


 ミウは空から走り回っているカーバンクルの足音を記憶する。記憶できれば足音を逃がすことはない。後はミウの音を消しながら、後ろから保護するだけなのだが。

 ソーラとミウはほぼ同時のタイミングで、カーバンクルが走り回っている理由に気がついた。



≪ねぇね、カラスの声聞こえる≫

「あー、うん。こっちもカラスが三匹。そういえばあの子言ってたね。額の宝石に反応してよくカラスに襲われるって」

≪ということは逃げちゃったのもカラスに追われちゃったせいかな。追い返すね≫



 ミウはカラスがいる方向に口笛を吹き、その音を変換する。変換する音は「カラスが襲われている時の鳴き声」、そして直後に「タカの鳴き声」。

 カラスたちは音を聞いた途端、ほぼ反射的、一目散に反対方向へと飛んで逃げていった。その音を聞いたカーバンクルも反応し、周囲をきょろきょろして自分が襲われないかと焦っていたようだが、その隙を突いてミウが音を殺しつつカーバンクルを優しく抱いて回収する。



≪回収完了。ねぇねも回収するね≫

「怪我とかなさそう?」

≪疲れてるだけで特に怪我もなし。……指輪の宝石に興味津々でずっとスリスリしてる≫

「あ、見えた。かわいい」

≪ちっちゃな動物だったら飼ってもいいのかな。後で店長に聞いてみよう≫

「ふふ、ルートヴィッヒのこと思い出した?」

≪ちょっとだけ≫



 今は故郷の村で留守番を任されているミウのペットのことを思い出しつつ。ペットの世話をしていた二人には、ペットの心配をする飼い主の気持ちもよく理解できる。

 早く飼い主、もとい依頼主のところへ早くカーバンクルを届けてあげようと、二人で言葉にせずとも通じあっていた。

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