第7話 プラネタリウム
前回のあらすじ
立ち退きの件は解決したよ!
でも、どうすればいいかわからないんだって。
翌日私は、町の中央にある警察署へと足を運んだ。
受付で、昨日の件をつたえ、署の2階へと通された。
そこには葉月ちゃんのパパがいた。今日はサングラスをしておらず、彼は意外とつぶらな瞳をしていた。
軽く挨拶を済ませると、奥の取調室へ通された。
取調室につくと、机を挟み向かい合って座った。
しかし改めて見ても堅気とは思えない風貌をしている。
「昨日はお疲れさん。おかげさまで一気にパクれそうだ」
葉月ちゃんのパパは上機嫌にいった。
「よかったです。あの……立ち退きの件はどうなるのでしょうか?」
私は今日一番聞きたかったことを聞いた。
「それなんだけどな。おそらく、なくなると思うぞ。まだニュースにはなっていないが、あくまで一企業がそういう団体を使って地上げをさせていたっていうのはどう考えてもまずいんだ。だから、今回問題になった場所をまた開発しようとするのは難しいだろ。マスコミもうるさいだろうし」
それを聞いて私はホッとした。
良かった。月見里さんはおばあちゃんとの思い出がつまったあの家を手放さずに済んだんだ。
早く彼女に教えてあげたい。
「よかったです。それだけが本当に心配だったので」
「そりゃあよかった。彼女も不安だろうから、これが終わったら教えてやんな」
それから葉月ちゃんのパパは調書を取り始めた。
30分後調書を取り終えた私は、葉月ちゃんのパパに改めて、お礼とお菓子を手渡して警察署を後にした。
それから私はすぐに月見里さんへ連絡した。
『お疲れ様。昨日は眠れましたか? 今日警察署でいろいろ聞いてきたんだけど、立ち退きの件はなくなるみたいです。だから安心してください』
するとすぐに返信が返ってきた。
『お疲れ様です。昨日は本当にありがとうございました。安心しました。神田さんのおかげで、おばあちゃんとの思い出を失わずに済みました。本当にありがとうございました。それと今日、少しお話があります。お待ちしております』
安心してくれたようでよかった。しかし、話があるとは何だろうか?
私はもやもやしながらお昼ご飯を食べに商店街へと向かった。
私はお昼ご飯を食べ終わり喫茶店で、スマホをいじりながらコーヒーを飲んでいた。
すると、倉橋さんから連絡が入った。
『お疲れ様です! 窓の外を見てください!』とだけ連絡がきた。
言われるがまま窓の外を見ると、そこには倉橋さんがいた。
彼女は店内に入ってきて、私の前へ座った。
「先輩こんにちは!お邪魔してもいいですか?」
「いいよ。ここで会うなんて偶然だね」
彼女は微笑み、
「そうですね! 運命を感じちゃいますね!」といってきた。
随分とキャラが変わったものだなと思いながらも、この明るく人懐っこい感じは嫌いではなかった。
そこからまた他愛もない話をし、そろそろいい時間になっていた。
彼女が切り出した。
「あの……急なんですけど、これ一緒に行きませんか?」
そう言って彼女はスマホの画面を見せてくる。
そこにはプラネタリウムのポスターが表示されていた。
ポスターには、『満天の星空コンサート』と書かれていて、どうやらプラネタリウムを見ながらオーケストラのコンサートをするようだ。
「もともと、友達と行こうとしてたんですけど、その子が急に来られなくなっちゃって……それで、今日の夜18時からなんですけど、良かったら一緒に行きませんか?」
講座が終わるのが、大体17時なので間に合いそうだ。
「いいよ。自分でよければ」
彼女の表情がぱっと明るくなり、私は彼女と18時に駅前へ集まることになった。
その後彼女と別れた私は、講座を受けるべく月見里さんの家へと向かった。
今日も門を開け、玄関のドアをノックする。
「はーい。今行きまーす」
そういって彼女が玄関の扉を開けた。
彼女の姿に少し違和感があった。それは彼女が今日は着物ではなく私服だったからだ。
思わず私は尋ねる。
「今日は着物ではないんですか?」
彼女はいつも通りに、
「はい。実は今日は諸事情があって、私服なんです」
「そうなんですね。お忙しいようであれば、明日また伺いますよ」
「いえ、大丈夫です!気にしないでください。さあ、こちらへどうぞ」
そう言って彼女は、私を講座の部屋へと誘導した。
席に着くと彼女は改まって、
「神田さん。今回は本当にありがとうございました」
そういって深々と頭を下げた。
「いえ、気にしないでください。私も月見里さんの大事なものが、無くならなくてよかったです」
彼女は私の顔を見てにっこり微笑むと、
「実はお話がありまして、明日、神田さんに会わせたい人がいます」
そう言った。
「会わせたい人……ですか。私は別にかまいませんが、どういった方なんですか?」
「以前お話したことがあるかもしれませんが、私のお師匠様に会っていただきたいんです」
月見里さんの師匠といえば、確かアマテラスの再来という異名を持つ方だったと思うが、いったい私をその師匠と会わせてどうするつもりなのだろうか?
「私は構いませんが……どうしてですか?」
「お師匠様に神田さんのお話をしたら、私にも会わせろと言われてしまって……」
アマテラスの再来は大分豪快な人なんだなと思った。
月見里さんはフォローするように、
「あの、すごく優しくていい人なんです!それに、未来も過去も見えるようなすごい方なので、私のラッキーアイテム以上にいいアドバイスをくれると思います!」
ここまで必死に言われると、従わざるをえない。
「わかりました。明日ですね。お師匠様にお会いしますよ」
そう私が言うと彼女の表情は明るくなった。
正直なところ、あの月見里さんがそれほどまでもすごいという師匠に実際会ってみたい。
怖いもの見たさというか、好奇心が私の中で高まっていた。
「そうしましたら、明日の朝9時に私のうちに集合でお願いします。それじゃあ、今日の講座を始めていきましょうか!」
それから講座が始まり、2時間ほどが経過した。時計は17時を指していた。
「では、今日はこの辺にしておきましょう。でも神田さん少しづつタロットカードを覚えてきましたね!」
「そうですね。やっぱり月見里さんの教え方がうまいからですかね。」
「そ、そんなことないですよ!でも、ありがとうございます」
彼女は優しい笑顔を見せた。
その後彼女は私を見送るといい、2人で玄関まで歩いた。
玄関に着き靴を履き、彼女のほうを見ると、
彼女は痛そうに胃のあたりを押さえていた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。最近胃が痛くなるんですよね」
「ストレスでも胃は痛み出したりもしますから」
「確かにここのところ、立ち退きの件でストレスが溜まっていた気がします」
私たちはお互いに微笑みあって、別れた。
月見里さんの家を後にし、私はそのまま駅に向かった。
しかし、早く着きすぎてしまい時刻は17時30分を回ったところだった。
どこかで時間をつぶすほどでもないので、駅前で待つことにした。
すると数分後、声をかけられた。
「先輩!お待たせしました」
声の主は倉橋さんだった。
彼女は昼間の服装と違い、少し着飾っていた。
「服変えてきたんだね。自分は昼間と変わらないけど大丈夫かな?」
倉橋さんはにっこり微笑み、
「大丈夫ですよ!さあ、行きましょう!」と言い、私の手を引いて会場へと向かった。
プラネタリウムの館内に入り、倉橋さんがチケットを係員へ渡す。
係員から席番号を渡され、私たちは指定の席へと向かった。
横並びの席に座り時計を見る。まだ開演まで時間があるようだ。
「プラネタリウムに来るのなんて久しぶりだけど、倉橋さんはよく来るの?」
「いえ、私も久々に来ました。でも、きれいなものを見るのは大好きですよ!」
そういう彼女の眼はとても輝いていた。
「私、生でオーケストラの演奏聞くの初めてなんです!だからそれも楽しみで。先輩は聞いたことありますか?」
「あるよ。やっぱり生で聞くと迫力が違くて、すごくいいよ」
「そうなんですね!楽しみだなぁ」
彼女は子供のようにワクワクしている様子だった。
そうこうしているうちに開演のブザーが鳴り、あたりが暗くなった。
アナウンスとともにドーム型の天井に映し出されるきれいな星空、それに合わせてオーケストラが奏でる音楽が実にマッチしている。本当に素敵な時間だった。
ふと隣を見ると、倉橋さんは真剣な表情で星空に見入っていた。
淡い星の光に照らされた彼女の横顔はとても美しいと思った。
そこから1時間半ほどですべての演目が終了し、
あたりが再び明るくなる。現実に引き戻される感覚がした。
私は倉橋さんのほうを見て、
「すごくきれいだったね」と言った。
「はい。すごくきれいでした。……それに先輩と来られて本当に良かったです」
彼女は優しく微笑みながらそう言った。
他の観客たちが、ぞろぞろと外へ向かっていく。
私たちも周りにならって、外へと出た。
「この後時間ある?良かったらご飯でも行こうよ。おごるからさ」
彼女は嬉しそうに言った。
「いいんですか!行きます!でも、おごりじゃなくていいですよ。私もちゃんとバイトしてますからお金持ってますし」
「いや、さすがにタダでこんな素敵な体験をさせてもらったんじゃ悪いからおごらせてよ。何か食べたいものある?」
彼女は少し考えると、
「そうですね……パスタとか食べたいです」と言った。
「了解。そしたら、近くにおいしいイタリアンがあるからそこに行こう」
そう言って私たちはイタリアンのお店へと向かった。
お店は意外と空いていて、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
店員に2人掛けのテーブル席へ通され、向かい合って座りパスタとワインを注文した。
「ワイン頼んじゃったけど、倉橋さんは飲める?」
「そこまで強くはないですけど、好きですよ」
「よかった。ここワインもおいしいから楽しみにしててね」
私は笑顔で言った。
パスタとワインが運ばれてきて、私たちは乾杯し、食事を始めた。
食事も終わり、ワインを飲みながら話をする。
「今日は本当にありがとうね。誘ってもらわなかったら、多分行くことはなかったかもしれないから」
「ふふ、そう言っていただけると誘ったかいがありました。でもなんだか不思議な感じですね、先輩とこうして二人で食事をして、お酒を飲むっていうのは」
「そうだよね。高校生じゃお酒飲めないから、なんか新鮮だよね」
「ふふ、そうですね。やっぱり先輩と一緒だと楽しいです。また、どこかに誘ってもいいですか?」
「そうだね。またどこかに行こうか」
彼女は嬉しそうに、「はい!」と言った。
その後はおつまみを頼みつつお酒も進み、気が付けば22時を回っていた。
彼女の顔は赤らみ、徐々にろれつが回らなくなってきている。
私は最後にお水を注文し、彼女に飲ませ店を後にした。
「大丈夫?結構飲んでたけど……」
私が心配になり声をかけると、
「大丈夫です!」
といいながらも彼女はふらふらしていた。
「家まで送るよ、もう時間も遅いし」
「……ありがとうございます。お言葉に甘えます!」
そう言って彼女は私の腕に抱きつき、歩き始め、道案内されながら彼女の家へ向かった。
歩き初めてから10分ほどで彼女の家に着いた。
彼女の実家は一軒家で、隣に小さな公園がある。
彼女は公園のベンチを指さしながら、
「あそこで少し酔いをさましてから帰ってもいいですか?」と言い出した。
「いいよ。今の状態で帰ると、家族も心配するだろうし」
と言い、2人でベンチに腰掛けた。
彼女は私の腕に抱きついたまま、私にもたれかかった。
「それにしても、結構飲んだね。大学でも結構飲むの?」
「いえ。大学ではほとんど飲みません。こんなに酔っぱらったのも初めてです。やっぱり先輩と一緒だと、楽しくて飲んじゃうみたいです」そういった彼女はいたずらに笑って見せた。
すると彼女が突然立ち上がり、
「先輩。お話があります」と言い出した。
相変わらずふらふらしているので、私も立ち上がり彼女を正面から支えた。
彼女は急に真面目な顔をして、
「私、やっぱり先輩の事が大好きです」と言い、
私の首に両手を回して、キスをした。
私は突然のことで固まってしまった。
唇には、彼女の唇の柔らかい感触が残っていた。
彼女は私の首に手を回したまま、私の目を見つめ、
「答えは、また今度聞かせてください。月曜日のお昼に、また駅前の喫茶店で会いましょう。今日はありがとうございました」
そう言うと、彼女は足早に家へと入ってしまった。
私はその場で少しの間立ちすくみ、自分の家へと向かった。
帰る道中、私の頭の中には先ほどの光景が何度もフラッシュバックしていた。
彼女はいよいよ本気で私との関係を決めに来るようだ。
私もなあなあな返答はできない。
だからこそ、彼女が前に進めるように、次の人を見つけられるような返事をしなくてはいけない。
家に着いた私はベッドに突っ伏しそのまま眠ってしまった。
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