第5話 ラッキーヒューマンは?

前回のあらすじ

後輩に告白されたり、ひったくりを捕まえたり、おばあさんの骨折を治したりと大活躍だったけど、完全に怪しまれてるよ


私は今日学校を休みました。

どうしても気になることがあるからです。

アマテラスの再来こと、私とおばあちゃんのお師匠様に神田さんのことを聞いてみようと思います。

私の力では、神田さんの過去の事をそこまで見ることができませんし、未来の私と神田さんの事も断片的にしか見ることができないからです。


お師匠様の家は、私の家から自転車で30分ほど行った山の中にあります。

そこには本当に古くからある神社があり、そこにお師匠様は住んでいます。

私は、お師匠様の家に向かう道中もずっと神田さんの事を考えてしまいました。


神社のある山のふもとにつくと、私は自転車を止め、大きな鳥居をくぐり石段を登っていきました。

ここはいつ来ても本当に静かで、私はこの空気や雰囲気がとても好きでした。

石段を登りきり、小さな鳥居をくぐると正面には大きな本殿があり、向かって右側に小さな社務所があります。

この社務所がお師匠様の家です。

まずは参拝しようと本殿の前に立ち、お賽銭を入れ、大きな鈴を鳴らします。

二礼二拍手一礼をし、後ろを振り向くと、そこにはお師匠様がいました。

「ひ!」と驚きの声を上げると、お師匠様は笑いながら、

「千歳久しぶり! 大きくなってないなあ!」といいました。

お師匠様は、私とあまり背丈は変わらず、巫女装束を身にまとい黒髪をツインテールにした子供のような顔つきの、年齢不詳の方でした。

「お師匠様、お久しぶりです。今日は……」

そこまで言うとお師匠様が、

「ああ、彼の事ね。千歳が今日来るのが見えてたから先に見ておいたよ」

流石と言わざる負えません。アマテラスの再来という異名は伊達ではないのだなと思いました。

「お師匠様は本当に何でもお見通しですね……」

私がそう言うと、

「そんなことないよ。私は未来と過去が人よりちょっと見えるだけで、相手が考えてることとかはわからないもん」

と笑顔でいいました。

お師匠様は、「とりあえず家で話そう!」

と私の手を引き、私とお師匠様は社務所の中へ入りました。


社務所の玄関を上がると、正面の客間に置かれた平机の上にお茶と平机を挟んで座布団が用意されていて、私は入り口側の席に座りました。


私の正面にお師匠様が腰かけ、

「早速本題なんだけど……」と話し始めました。

お師匠様はニヤッと笑うと、

「彼は何者だと思う?」と私に問いかけました。

私が今回一番聞きたいのは、お師匠様が言った通り、神田さんが何者かということです。


「神田さんは、いったい何者なんですか?」

私が問いかけると、お師匠様は少し間を開けて、

「……わからない」といいました。

神田さんが何者かということよりも、あのお師匠様がわからないといったことの方が驚きでした。

「お師匠様でもわからないことがあるんですね!」と言うと、

「そりゃそうだよ! 私は別に神様じゃないし!」と笑いながら言いました。

「というよりも、彼の過去を遠隔で見ても正直いろんな情報が多すぎて何が何だかわからないって感じなんだよね」

そう言ってお師匠様は右手で頭をかきながら、いやーまいったまいったと言いました。

「そうなんですか……」私が少し落ち込んだそぶりを見せると、お師匠様が切り出します。


「だから今度さ、直接連れてきてよ! デートとか言ってさ!」

「で、デートですか! それはちょっと……」

私は自分でも顔が真っ赤になっているのがわかるほど恥ずかしくなってしまいました。

そんな私を見てお師匠様は、「千歳はウブだなー!」と言って笑っています。少し意地悪です。


「でもさ、千歳がこんなに誰かの事を気にするのって初めてじゃない?」

「そうでしょうか……」

「そうだよ。いつもの千歳ならわからないことはわからないでほっとくじゃん! だから少しうれしいんだよね」

「……何がうれしいんですか?」


お師匠様はにやっと笑って、

「千歳が恋してるなってさ!」

「こ、恋! ち、ちがいます! そういうわけではなくて!」

突然お師匠様が恋などと言い出すので、私はさっきよりも自分の顔が赤くなっているのがわかりました。

「でもさー、見たんでしょ?はじめて彼にあった時に」


そうなのです。今日お師匠様に聞きたかったことがもう一つありました。

それは、初めて神田さんに触れた時に流れ込んできた未来の映像。

具体的に言うと、私が神田さんに「君とこの人生を過ごしたい」とプロポーズされる映像でした。

私は今まで誰かを好きになったことも、もちろん誰かと付き合ったこともありません。

もちろん神田さんとそんなことになるとは思えなかったのです。

だからこそ、今日はお師匠様にあの時の未来の映像は本当なのかどうか聞きたかったのです。


私はお茶を一口すすると、

「そうなんです。あれは本当に起きるのでしょうか!」と聞きました。

「そうだよ」とお師匠様は軽く言います。

お師匠様のそぶりに私は少し拍子抜けしてしまいましたが、それと同時に顔がまた真っ赤になっていくのを自分でも感じました。


お師匠様は、私の目を見て微笑みながら、

「だからさ、連れてきてよ! 千歳の事は小さいころから見てるけど、どこの馬の骨ともわからな……というか何者かわからない奴に千歳はやれないじゃん? だからさ、一回見ておきたいんだよね、彼の事」

「……ありがとうございます」

私には血のつながった肉親はもういませんが、唯一家族と呼べる人がいるとすればこのお師匠様です。

本当に優しく、私の事を気にかけてくれる、おばあちゃんのようなお母さんのような存在なのです。

私は思わず泣きそうになってしまいました。

それを見たお師匠様が、「千歳はすぐ泣く、泣き虫だからなー」と笑いながら言いました。

「もう!」と私は笑いながら言いました。


それからお師匠様と最近あったことなどを話し、いい時間なのでそろそろお暇しようとすると、

お師匠様が急に真面目な顔になって私に言いました。

「千歳にあんまりよくないことがいくつか起きるけど、その時は私じゃなくてまず彼に頼ってみてね。その方がすんなり解決するから」

私は突然のことで驚き、

「え?よくないことって何なんですか?」と尋ねると、

お師匠様はニヤッと笑いながら、

「それは秘密!そのほうが楽しみが増えていいでしょ!」と笑いながら言いました。

「よくないです!」と私が食い下がりましたが、早々に返されてしまいました。


お師匠様の家を出て私は家に戻りました。

時計を見ると、そろそろ神田さんが来る時間になっていました。

私は着物に着替え、神田さんを待ちました。



私はその日久々に寝坊した。といっても講座の時間まではまだ十分あるのだが。

昨日はいろいろなことがありすぎて、おそらく疲れていたのだろう。

倉橋さんとのこと、それにひったくりを捕まえておばあさんを治し、月見里さんに疑われている事。


私は人を好きなってはいけない。親密な間柄の人を作ってはいけない。

そう決めたことが自分を苦しめているように感じた。

私はいったいどうすればいいのだろうか。

人は思い悩む生き物だ。だからこそそんな時には道を示してくれるものに人はすがりたがる。

占いなどがいい例だと思う。

しかし、今の私にはそんな相手は存在しない。

月見里さんにもらったタロットカードを取り出し、眺めながら頭の中でいろんなことがぐるぐる回っているのを感じた。

私は気持ちを切り替えようと、ひとまずシャワーを浴び、身支度を整え月見里さんの家へと向かった。


月見里さんの家に着き、いつもの様に門を開け、玄関の扉をノックする。

「はーい」と中から月見里さんの声が聞こえ、彼女が現れた。

彼女はすでに着物に着替えており、

「そのままどうぞ」と優しい笑顔で私を案内した。

いつもの部屋につくと、簡易的なテーブルをはさみ席に着いた。


「で、では今回は、タロットカードの事や、描かれたイラストの意味などを学んでいきましょう」

そう言う彼女はどこかぎこちなく、私と目を合わせようとしない。

どういうことだ?それに心なしか顔が赤いような気がする。

熱でもあるのだろうかと思いつつも、持ってきたタロットカードを机の上に置いた。

彼女は続けた。


「タロットカードは計78枚のカードからなり、大アルカナと小アルカナに分けられます。大アルカナは22枚、小アルカナは56枚あります。わかりやすいのは大アルカナからなのですが、とりあえずこの山の上から一枚引いてください。それから始めていきましょう」

私は言われた通りに山札の一番上から1枚カードをめくり山札の横に置いた。

そのカードに描かれているのは、中央に神さまのような絵柄が描かれ、その左右に男女が向かい合って立っているカードだった。


「これは……」と彼女のほうを見ると、彼女は耳まで真っ赤にしながら、

「こ、これは、こ、恋人、ラヴァーズのカードですね……」と言い黙ってしまった。

どうしたのだろうか?私は不思議に思い、尋ねた。

「どうしたんですか?顔が真っ赤ですが、体調でも悪いんですか?」

すると彼女は慌てたように、

「い、いえ別に……次に行きましょう!」

と次のカードをめくろうとする。


私は彼女を制止して、

「待ってください、この恋人のカードの意味は何なんですか?」と尋ねた。

彼女は顔を真っ赤にしたまま、「えっと…その…」と口ごもってしまう。

私が不思議そうに眺めていると、彼女は急に私の目を見て、

「神田さんにはまだ早いので、次のカードをめくります!」と言った。

私は彼女の勢いに負け、つい「はい」といってしまった。


仕切り直して次のカードをめくる。

次のカードに描かれていたのは、男が足をひもで括られ吊り上げられているカードだった。

これは私も見たことがあると思い、

「これは、えっと、吊るされた男のカードですよね」と言った。

彼女は少し驚いた顔をして、

「正解です!よく知ってましたね!」と笑顔になった。

彼女はこのカードの説明を始める。


「このカードは、試練や忍耐、献身といった意味があります。他にも、何かに縛られているという意味もあったりするので、相手の今の現状などで、束縛を感じるような、人やルールなどがあるのではないかと考えられます」

このカードは私にはまだ早いわけではなかったようだ。

しかし、これを聞いてふと今朝の事を思い出した。

私は今倉橋さんに告白されたことや、月見里さんと仲良くなり始めている事に対して、自分の決めたルールに縛られている。

それが今もやもやして仕方がないのだ。偶然ではあるが、私の事を言っているのではないかと思ってしまった。


それからは同じようにカードをめくり十数枚のカードの説明を受け、そろそろ2時間が経過しようとしていた。


月見里さんが、

「そろそろお終いにしましょうか。たくさん詰め込んでも覚えきれないですからね。お茶淹れてきます」といって席を立った。

それにしても今日の月見里さんはどこか様子がおかしい。

ぎこちないというか、なんというか。

やはり体調でも悪いのだろうか、それとも昨日の事を引きずっているのだろうか。

だとすれば少し厄介なことになる。

転生していることを人に打ち明けてもろくなことが起きないのは、今までの人生の中で痛いほど感じている。

月見里さんと少し距離多くのも必要なのかもしれない。


そんなんことを考えていると、月見里さんがお茶を淹れ戻ってきた。

私の前に、ピンク色の可愛らしい湯のみが置かれ、月見里さんの前には、猫が描かれた湯のみが置かれた。

「ずいぶん可愛らしい湯のみですね」

そういうと彼女は笑顔で、

「そうなんです! 商店街でたまたま見つけて一目ぼれして買っちゃいました!」

そう言う彼女の笑顔はとても可愛らしかった。


そこから少し話をし、そろそろと席を立つ。

私はいつものように、

「今日のお代はおいくらですか?」と尋ねた。

彼女は少し考えてから、

「3,000円で結構です!」と言った。

ずいぶん安くなったものだなと思いつつも、私は少し悪い気がして5,000円彼女に手渡した。

それを見て彼女は、

「2,000円多いです!今お釣りを持ってきますね!」と立ち上がろうとする。

私はそれを止めて、

「お茶もごちそうになりましたし、いつも良くしていただいているので、気持ちと思って受け取ってください」と言った。

彼女は申し訳なさそうにお金を受け取り、

「そうだ!」と言って私の手に触れた。

彼女はにっこりしながら、

「今日の神田さんのラッキーヒューマンは、小さい女の子です!」と言った。

毎度のことだが、占いの結果にパワーワードが詰め込まれている。ラッキーヒューマンというのは人物的な意味だろう、そして小さな女の子というのはどういうことだろうか?

もう夕方になっていて、小さな女の子に出会って話しかけるのは、完全に声掛け事案ではないだろうか?

私は若干腑に落ちない感覚を持ちながら、

「……わかりました。ありがとうございます。と言った。


彼女が玄関まで見送ってくれ、私は月見里さんの家を後にした。

閉じられた門をあけ、外から閉めようとすると、門に貼り紙がしてあるのが見えた。

占い講座の募集かな?と思いつつ、何の気なしに貼り紙に目をやる。

そこには赤のマジックででかでかと、

『早く立ち退け!これが最後通告だ!』と書かれていた。

私は驚き、貼り紙をはがして月見里さんの元へ戻った。


扉を開け、大きな声で

「月見里さーん!ちょっとお話があります!」と言った。

すると奥の方から、

「ちょ、ちょっと待ってください!今行きますから!」

という月見里さんの声が聞こえた。


5分ほどその場で待つと、私服を着た月見里さんが現れた。

よっぽど急いだのだろう、彼女は息を切らしながら、

「すみません、お待たせしました! 忘れものですか?」と言った。

私は先ほどの貼り紙を彼女に見せながら尋ねた。

「門のところにこんなものが……」

彼女は驚いた顔をした後、悲しそうな顔をし、

「……また、こんなものが」と呟いた。

私は心配になり、彼女に尋ねた。

「何かあったんですか?」

すると彼女は少し考えるようなそぶりを見せ、間を開けてから私に言った。


「おばあちゃんが生きていたころから、ここの土地を譲らないかという話は出ていたんです。大きなマンションを作るからって。おばあちゃんはそれに反対していましたし、私もこの家はおばあちゃんとの思い出がたくさんつまった家なので、絶対に譲りたくないんです……でも最近はどんどん嫌がらせがエスカレートしていて、近所の人にも悪いうわさを流されたり、学校の前で待ち伏せされたりしているんです……」

そう言った彼女は、泣き出しそうな顔をしていた。

なんということだ。私は許せない気持ちでいっぱいになった。

それと同時に、彼女のために何かしてあげたいと思った。


しかし実際問題私に何ができるだろうか?

そう考えてしまうと私は、

「何かあったら力になるから何でも言ってください」というのが精いっぱいだった。

彼女の表情は明るくなり、

「ありがとうございます」と言った。

わたしは彼女と別れ家へと戻った。


家に着くと隣の部屋の葉月ちゃんと玄関の前でばったり会った。

私を見つけるなり、葉月ちゃんは私に駆け寄り抱き着いてきた。

鬼澤さんの一件以来、葉月ちゃんには大分なつかれている。

「お兄ちゃん今帰ったの?」そう私を見上げながら葉月ちゃんは言った。

「そうだよ。ちょっとお出かけしてたんだ」

私は笑顔で葉月ちゃんに応える。

そこで、先程言われた占いの事を思い出した。

しかし、こんな少女に立ち退きの話をして解決するのだろうか?

私が少し難しい顔をしていると、葉月ちゃんは心配そうに、

「お兄ちゃんどうしたの?何かあったの?」と尋ねてきた。

私は少し考えたのち、簡単に経緯を話し始めた。

「あのね、お兄ちゃんの知り合いが、悪い人にお家を出て行けって言われてて困ってるんだ。何とか力になってあげたいんだけど、どうしたらいいかわからなくて……」

こんなことをこの少女に言ったところで解決しないのは、わかっていた。だが、誰かに打ち明けたかったのだ。


葉月ちゃんは暗い顔をして、

「んー……大丈夫!葉月がなんとかしてあげる!」

と言ってくれた。

無理だとは分かっていても、私はすごく嬉しかった。

葉月ちゃんに勇気をもらった私は、お礼を言い自分の部屋に戻った。


私はどうすれば彼女を救うことができるのだろうか?

わからない。今は何も思いつかない。

私は色々と考えながら眠りについた。

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