1. 逢空と桜花(8)
この会話から察すると思うが、昨日のあの時、僕は彼女の要望を受け入れたのだ。正直言うと、あれほど友達を作りたがらなかった僕がこんなにあっさりと承諾したことに、自分自身が一番驚いていた。
それでも彼女と友達になっても後悔しないと、あの時はそう思えたんだ。そう、この時は。きっとそれは、彼女からなんとなくのシンパシーを感じたからであろう。
「りょーかい。夏音たちにもあとで伝えておくね!今忙しそうだから。それにしても……冬田くんてあれだね。笑っている顔見たの初めてかも」
「ん、そんなに笑っていなかったかな」
「うん、正直言っちゃうと
「え……。あと、日曜の集合時間はあとで決めるのでいいよね?」
自分のことを不愛想なやつだな、と自分でも思っていたのだが桜原さんに言われるほどだとは思わなかったから少しびっくりした。逆に桜原さんは様々な顔を、一面を見せすぎていると思うけれど。
……今度からはもう少し笑って生きよう。頑張れ、表情筋。
「あ〜。そうだね、この機会にアプリでグループ作っておくよ。ついでに連絡先教えてくれない?」
「ちょっと待ってね……。はい、これでいいかな」
僕は慣れない手つきで設定を開き、QRコードを表示する。そして、彼女の手元にスマホを見せた。
「お、ありがと。ちょっとそのまま持ってて」
彼女は慣れた手つきでQRコードを読み込ませる。それからすぐにスマホがブルッと振動した。
ホーム画面に戻ってみると『季節めんばー』というグループから招待が来ていた。
「季節ってどういうこと?」
思わず僕は、桜原さんに疑問を投げかける。
「えっと、“冬“田くん、“夏“音、“凪“斗くん、“桜“原っていう感じでみんな季語がついていたからそう付けちゃった。なんか凪は夏と冬の季語らしいよ。あ、適当につけちゃったから他にいい名前があったら変更していいよ」
僕はそれを聞いてなるほどな、と妙に納得してしまった。それは、全員季語が入っているということもそうなのだが、なぜか運命的な何かを感じていた。
そう思ってしまうのは、お
「いや、めちゃくちゃいいと思うよ。気づかなかったけど確かにそうだ。秋がいないのが少し寂しいけどね」
「それは良かった。秋については追々メンバー増えるかもだから」
「お、誰かあてでもあるの?」
「まぁね、今度機会があればだけど紹介するよ〜」
「そうなんだ。あと、そろそろクラスの人たち来始めたから一度席戻ろうかな」
僕はそうして、席を離れようとする。秋がつく人って一体誰なんだろう。男子だったらなんだか嫌だな、とかそんなどうでもいいことを思いながら。
「また、休み時間に夏音たちとも一緒に話そ」
そんな桜原さんの言葉に頷いて、机3つ分前の自分の席に移動した。椅子の高さに慣れていないのか、まだ多少の違和感を感じる。
まぁ、きっとそんな些細なことでも、次第に慣れていくのだろう。
「ねぇ」
そんなことを考えていると、横から倉峰の声がかかった。どうしたんだろ、と体を彼の方に向ける。
「春休みの宿題の答え、よかったら見せてくれない?」
彼が、焦った顔で、頭を掻きながら聞いてくる。いや、自分転校したばかりだから課題とか出てすらないんだけど……。というこ、会った時からどこか焦っていたのはこれか。
「ごめんけど自分課題出てすらいないから、……涼石さんにでも聞いたら?」
僕は至極真っ当なことを口にする。同時に、夏音さんの苗字についてさっき名簿を見ていて良かったと、心から思った。
「あ、確かにそっか。でも夏音も夏音で多分今、必死にやってるからなぁ」
僕はチラと涼石さんの席を見た。彼女は参考書とにらめっこしながら、猛烈な速さでペンを進めていた。このペースから察するに答えを見ながらやっていることは誰から見てもバレバレだった。
「と、いう訳で夏音も今無理なんだよね。桜原さんはすでに終わらしていて、絶対答え持って来てないだろうし。ま、他のダチ来たら聞いてみるか。突然聞いてごめんな」
彼は、諦めたように席に戻っていく。提出日当日に慌てて宿題を終わらすカップル……。なんだか昨日は思わなかったけれど、桜原さんが言っていた通りお似合いだなって思えてくる。そう思わせるくらいほんわかしてほんのり温かい絵面だった。
天の使徒 すれぷと @slepter
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