4-2 預金残高が5万円な件

 丈が長めの白いドレスシャツに黒い細身パンツできれいめに仕上げて、髪の毛はクセっぽくはねさせて固めのワックスでつまむ。マッシュベースだけど目元が見えるくらいまで短くなったから、コテも使い甲斐あるな。

 出かける支度を終えたらキッチンへ。お湯を沸かしてコーヒーをドリップする。

 はあー、落ち着く。

 コーヒーの匂い最高。いちばん好きな匂いです。


「せんせーっていつもコーヒー飲むね。今日のいいにおいする」


 いつの間に来てたのか、神崎さんが興味津々にドリップをのぞいていた。


「わかる!? あれ、神崎さんってコーヒー飲めるっけ?」

「の、飲めぅぃ……」

「え? なんて?」

「〜〜♪」


 口笛吹けてないし。怪しいな……。

 ま、ミルクと砂糖を入れてあげればいいか。

 二人分のコーヒーを淹れて、ダイニングテーブルに置く。


「近所でねぇ、コーヒーの計り売りのいいお店見つけたんだよねー。それで、お店の若い男の人に淹れ方を教わってさぁ……って、神崎さん?」

「……これはたいへんまいるどかつでんじゃらすな……ごふっごほごほっ」

「うわああ! しゃべっちゃだめ! 口からこぼれてる! そこで待ってて!」


 ミルク逆流した乳児みたいになってる!

 キッチンに走り、ペーパータオルを取って戻ってきた頃には、神崎さんは魂が抜けていた。


「ってか、牛乳と砂糖用意してたのに入れなかったの? なんで?」

「まずは素材の味をたしなむべきかなって……」

「真面目か!? ブラックは大人でもキツかったりするんだから、無理したらダメだよー」

「そうなの? じゃあやっぱりせんせーが変わり者ってことか」

「もう絶対に飲ません!」


 くー、この豆、背伸びして買ったんだぞ!? こんなにも最高で繊細なフレーバーなのに、デンジャラスとか言いやがってまったく。

 ……って、小学生になに期待してんだか。

 金銭に余裕があればこんなくさくさした気持ちにならなかったんだろうなあ。

 はあ。


 お金がない。

 正直に言うと、夢ではちょっと盛ったけど、さっき確認したらリアル残高が5万を切ってしまっていた。

 引っ越しで一気に使ったのものあるけど、二人暮らしの生活費、それから光熱費が結構いい額するんだよなぁ。

 だけど趣味だけは。少ない趣味にかけるお金くらいはなんとか死守したいっ。古着は無理でも、コーヒーだけは……っ!

 あーあ、お金、降ってこないかなぁ。

 もしくは宝くじで500万でも当たんないかなーなんて。……切実。

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