4-1 せんせー、死刑
「フン。この最低クズのロリコン教師め、観念せんか!」
「ぐっ! ここは……!?」
後ろ手を縛られた僕は、教頭に背中を蹴られてゴツゴツとした冷たい地面に膝をついた。
……なんでっ? ここ、どこだよ?
僕を縛ったロープの先は教頭が握っていて自由が効かない。
唯一動かせる顔だけ駆使し、手早く状況を確認しようとしたが、あたりは薄暗く、
さっき肩に触れた石壁。
そして湿った土のにおい。
おそらくどこかの採掘場にいるらしい。
……え。なにこの急展開。ここまでの記憶が全くないんだけどっ!?
「なにをキョロキョロやっとる、
髪の毛を掴まれたかと思うと、すごい力で地面へと押さえつけられ、頬が土で擦れた。
教頭、ガチで怖い人だったんですね! そらこの風貌ですもんねぇっ!!
今日もつるつるのスキンヘッドとちょびヒゲ、そしてサングラス姿の教頭がこんなにキレてる理由として思い当たるといえば……神崎さんのことがバレたとしか。
でもいつ? どこでバレたのっ!?
「それでは、げんせーな処分を言い渡そー」
採掘場に響き渡る高い声は、僕のいる場所よりずっと奥から聞こえた。
いや、誰だよ。
そういえば今僕って、誰に向かってひれ伏してるんだ?
目を凝らして前方を伺うと、意味ありげなスモークの向こうに、
着物を着ていて誰か一瞬わかんなかったよ。こんなところで何してんの!?
「その者、
「待て待て待て刑が重いんじゃ! 刑罰は無罪と死刑の2種類だけじゃないからねっ!? というか、どうして神崎さんが教頭先生と……」
「教頭先生は奈朋の部下。学校ではスパイをしてもらっていたんだよ。せんせーは大切なごれいじょーを預かっている自覚がないだけでなく、常日頃から生徒を見てはニヤニヤニヤニヤと気持ちが悪いと報告が上がっている」
ちょま、おいっ!!
教頭がかしづいたまま、めちゃくちゃ睨みつけてくるんだけどー!!
「誤解ですよ、教頭先生っ! 僕は生徒にほっこりしていただけで、決してそんな濁った目では見てないですっ! 神に誓えます! ぜ、全財産かけられますよ!!」
「ほう。いくらだ?」
「えっ!? 10万……いや8万ほどかな……6万だったかも……」
「却下。話にもならんな」
「きたねえ大人だな!」
あっ、神崎さんがお前もだろ、みたいな蔑んだ目で見下ろしてるぅ!
「せんせー。何か最後に言い残すことはない? 聞いてあげてもいいよ」
「こ、こんなの横暴すぎる!」
「はい、しゅうりょー」
うそだろ、後世に何も残せなかったぁあっ!
「むー。でも奈朋も少しはお世話になったし、その分のご恩は返さなきゃだよね」
神崎さんは玉座から立ち上がると、着物の裾を引きずって目の前まで歩いてきた。
た、助けてくれるの?
僕は思いっきり頭を上げ、期待を込めて彼女を見上げた。
「かわいそーだから、埋める前に奈朋がお歌を歌ってあげるね♡」
心底いっらねええええ!!!
「くっ。神崎女史、なんとも奥ゆかしく粋なはからい」
「教頭、そんなんで感涙すな! 僕、その奥ゆかしい人に埋めるって言われてるんだけど!? ねえっ!?」
ダメだ! 教頭は完璧に自分に酔っていて聞いちゃいねえ!!
「じゃーいくよぉせんせー。ボエェーーーーーーーーーーーーーー!!」
「ひいいいしかも聞くに耐えないやつぅ!? ぐ、ぐわああああああああっ」
なんだ、体の中で小さな虫がうごめき皮膚を食い破って全毛穴から出て来ようとするような、不快という感情しかもたらさない奇声はぁぁあ!!
い、い、い、いっそ殺してくれーーーーー!!!
………………
…………
……
ボエーーーーーーーーーーーーーーーーーー
かちっ。
「……」
アラーム音、変えるか。
あくびをしながらリビングにつながる自室のドアを開けると、目の前のソファに座っていた神崎さんと目が合って、つい構えてしまう。
そんな僕に、神崎さんは不審げな目を向けてくる。
うっ……。
「こ、心を入れ替えますので、野蛮なのはやめよう……ね?」
「ほ? なにが??」
「ひいっ!」
僕はつま先立ちでリビングを駆け抜けると、洗面所へと逃げた。
ドアを閉めてホッと胸を撫で下ろし、目の前の鏡に映った慣れない自分の姿を見て思い出す。
あ。そういえば昨日、視界が広くなったんだっけ。
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