6-1 家事分担ギャンブル開幕
緊張の糸がピンと張り詰めた空間の中、飢えた虎と
それはまさに“必死”という形相!
腰に
両者の間には、もはや年齢というハンディは無効とされていた!
「「じゃんけん、ぽん!」」
「あっち向いてホイ! きゃははは、やったー♪」
「ぐああっ!?」
そして僕はなぜか勝負に12連敗中で、床に手と膝をついてうなだれた。
かなりの深手である。心に。主に威厳の面で。
「じゃあ、金曜日の食事当番もせんせーで。……ぷっ。奈朋もなにか手伝おうか?」
「ちぃ、幸運の女神に愛されし子どもめ。ぼ、僕も男だ、勝負ルールに二言はないっ!」
「きゃー、せんせーカッコいいっ☆ じゃあ次は掃除当番だね」
「ねー神崎さん。次はあっち向いてホイじゃなくて、ピコピコハンマーゲームにしない?」
「せんせー、それ二言っ!」
生活も少し落ち着いてきたし、今日は家事の分担を決めることにした。
家事は全部僕がしてもよかったんだけど、先日のホテルの会合で、神崎さんが僕に萎縮している風だったのが気になっていた。
だから僕たちのルームシェアに「助け合い同盟(相互扶助同盟にしようと言ったら、神崎さんがよくわかんないと反対したため)」と名付けて、お互いが望んでこの状況なんだという共通認識を持つことにした。
彼女が自分のせいに感じられては今後もやりづらいし、シンプルに僕がそんなことを望んでいないのだ。
まあそれで家事も分担することにしたんだけど、「やっぱ弱肉強食よねー」と言う神崎さんの提案で、勝負事で分担を決めてるんだけど。
神崎さんがギャンブルに強すぎる件。
なきそう。
「ねぇ、せんせー?」
「ああああ! 掃除もほとんど僕かよ!! ってなに? 情け?」
「ううん全然。あのね、水口くんのことなんだけど……」
神崎さんは手を後ろに回して、もじもじと体を揺すっていた。
僕はダイニングテーブルの上の画用紙に当番表を描きながら、会話をつなげる。
「あー、神崎さん告白されたんだよね」
「ふふーん。これで奈朋がモテるのおわかりになりましたかしらー?」
「まあ黙ってればかわいいしね、あなた」
「えっ……」
「じゃんけんぽん! あっち向いてホイッ! よっしゃ土曜日は神崎さんが掃除担当っと。……で、なんで断ったの? 彼しっかりしてるし、イケメンじゃん」
「だって彼女いるって。それにアキも水口くんが好きだし」
「うーん、水口くん、彼女と別れるって言ってたよ。結構本気っぽいし、あとはきみの気持ち次第じゃない?」
「む……」
「僕はふたりお似合いだと思うけどなー。ま、いちお保護者的な目線で言わせてもらうと、健全なお付き合いでお願いしますねー」
「……せんせーのばか」
「んー??」
顔を上げると、真っ赤な顔の神崎さんが隣で仁王立ちしていた。
ひいっ!? 鷹じゃなくて赤鬼だったか!?
「ぜんぶせんせーが担当しろーっ!!」
手を伸ばしたかと思うと、せっかく書き込んだ家事分担表をビリビリと引き裂いてしまった。
「ちょっとちょっと、どしたの!?」
「わかったよ、水口くんと付き合えばいいんでしょ! ばかー!」
「神崎さん? わけがわかんないって」
「どうせ奈朋なんて奈朋のことなんて……ひとごとなんだからー!」
えええっ、なぜ!?
神崎さんは目にいっぱい涙を溜め、ダッシュで自室に引きこもってしまった。
静かになったダイニングでは、テーブルの上にも下にも画用紙片が散らばっていた。
ため息をつき、それを拾い集めてみる。
これくらいならテープでつなぎ合わせられそうだけど……はあ。
単純作業をしながら僕は、明日の夕食は牛乳とちりめんじゃこの卵焼きと。とりあえずカルシウムづくしにしようと思った。
で、翌朝。起きたときにはもう神崎さんは家にいなかった。
かわりにテーブルの上に、生前はパンだったと思われる真っ黒な炭と、生前はスクランブルエッグだったと思われる真っ黒な炭、そして冷えたブラックコーヒーが用意されていた。
炭をつまんで観察をしていると、ふと壁に画用紙が貼ってあることに気づいた。
それは昨日、僕がつなぎ合わせた当番分担表。
ほとんど僕の名前が書かれていた家事分担のところどころが、赤字で「なほ」に訂正されている。
神崎さん……。
僕は炭を口に入れながら、食事当番の欄だけすべて自分の名前に戻しておいた。
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