5-2 僕のニューヘア学級裁判

  ◆◇◆◇◆◇



 5年1組の5時間目は、学級活動の真っ最中。僕は自分のデスクでクラス委員長の司会進行を見守っていた。


「じゃあ、飼育委員の女子は神崎さんで。よろしくお願いしまーす」


 パチパチパチ。


 いやあ、5年生はしっかりしてるから、監督も楽だなぁ。


「では男子立候補いますかー?」


 クラスに小さなざわめきが起こる。

 男子は「チャンス!」「お前やれよ~」「恥ずいってー」などと言いながら、からかい合っている。

 あっ、じゃんけんが始まった。

 へえ、神崎さんてモテてるんだ?


「俺やりたいでーす!」


 ひとりの男子が抜け駆けして手をあげた。

「えーー!?」という非難の声が上がり、いちばん後ろの席の男子は一斉に椅子から落ちてリアクションをとっていた。きみらノリいいな?


「神崎さんまだ来たばっかりだし、コミュ力高い俺がいろいろサポートしたらいいと思います!」


 クラスのみんなから「おーっ」という歓声が上がる。

 えっと、水口洋平くん。最初のあいさつのときに彼女がいるって言ってた男子か。彼はクラスでも一目置かれている存在みたいだよなぁ。

 今まで凛としていたクラスの女子委員長も、水口くんの前では顔を真っ赤にしてもじもじしてるし。

 ……彼とコンビで大丈夫かな、神崎さん。


「じ、じゃあみなさん。水口くんでいいですか? ほか立候補あったら挙手してください」


 水口くんなら仕方ないという雰囲気が流れ、誰も立候補しないまま神崎さんと水口くんで飼育委員が決まり、男子のクラス委員長が黒板に二人の名前を書いた。

 神崎さんはというと、自分ごとなのに窓の外を眺めていた。

 今日はやけにぼーっとしているな、あの子。


「では委員会の人が決まって時間が余ったので、最後に先生のニューヘアスタイルについて話し合いましょう!」

「えっ、僕!?」


 委員長に突然指先を突きつけられて、割とデカい声が出た。なにその急展開!?


「茶髪はいけないと思いまーす!」

「どうかーん!」

「不良だー!」


 クラスが団結して、話題が僕の髪へとすりかわった。

 神崎さんの視線も教室へ戻ってきた。

 まずい、これはまずいぞ……。

 一歩間違えば、超カリスマ美容師を自負している神崎さんの自尊心を傷つけることに……なりうるのではっ!?

 帰宅した神崎さんがメソメソ泣いて部屋に引きこもり、僕は廊下から2時間くらいなぐさめの言葉をかけ、静かだと思ったらちゃっかり彼女は寝ていて、疲れ果てた僕は翌日、目の下にクマを作って「うっわ、せんせーなんか顔が犯罪者」って生徒たちにバリア貼られて(みんな、待ってくれ! 違うんだ! これは神崎さんのせいで……でも言えないっ、ぐぬぬぬぬぬぬ!)ってモヤつくやつ!!

 ここはなんとか! なんとかいいあんばいにしておかなくては!!


「これ光だよ光の加減! 僕は生まれつきこの色だったんだよ」

「……」


 わ、我ながら苦しかったーっ!!

 こないだまで黒髪だったのに、何が生まれつきか! 髪を染めた学生が先生にしがちな言い訳第1位のやつじゃん、しかもバレバレのな!

 汗だらだらの僕とは逆に、教卓の向こう側には氷河期が訪れていた。

 みんなぁ、そんなにじと目で見ないでよ……。

 学級委員長ズも、絶句、しないで?

 ……なきそう。


「でも、髪型はカッコ良くなったと思いまーす」


 鶴の一声といえる、水口くんの意見がクラスに響き渡った。

 その一言で間違いなく、暗澹あんたんとしたクラスに一筋の光が差し込んだのだ。


「そ、そうだね。よく見たら斬新で、しかし好感が持てるシルエット……かも?」


 疑問系ではあったけど、あごに拳を添えて女子委員長が同調すると、クラス中にも「確かにそうかも」的な空気が流れ始めた。

 雲行きが変わった。

 いちおう肯定してくれてる……のかな?


「と、とりあえず色はなんとかするよ。びっくりしたよね、ごめん。でも、ほめてくれてありがとうみんな」


 とりあえず髪色のことだけは素直に謝っておいた。

 頭を上げたときに神崎さんをチラリと伺うと、彼女の視線はまた校舎の外に移っていた。

 しかし今度は確実に、口元が緩んでいたのだけれど。

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