1-4 誠くんと奈朋ちゃん
◆◇◆◇◆◇
入居の手続きはその場で行った。
条件も小学生とのルームシェアってこと以外は僕にとって悪いものじゃなかったから、ひとまずホッとした。
とりあえず引っ張っても3月頭入居にはなってしまったけど、まぁバイト代でなんとかなる。
話し合いには少女も参加した。
凛と背筋を伸ばし、確認のときだけ「はい」と答えていた。
少女はとてもしっかりして見えた。
少なくとも僕が子どものころ、こんなに大人じゃなかったと思う。
こんなに幼いのにきっと、僕には想像もつかないような苦労をしてきたんだろう。
少女の崩れない姿勢を見ながらそんなことを考えてると、胸がちくちくと痛んだ。
もろもろが終わり、外に出てすぐに電子タバコをくわえた。これから住む高級マンションを感慨深く見上げながら煙を肺に入れる。
家、勢いで決めてしまった。僕の人生、大丈夫かな……。
本音はこれだった。でもここまで来たら、もう腹を括るしかないんだけどさ。
タバコが終わって古式さんの車に乗り込もうとしたとき、少女がこちらに走って来るのに気づいた。
「あれ、どうしたの??」
「はせがわさん!」
少女は僕の前に立ち止まると、息を整えてぱっと顔を上げる。
「ありがとうございました! わたし、あんなふうに言われたのって初めてで、うれしかったです!」
それが少女が初めて見せてくれた笑顔だった。
そうだ。
僕は子どもたちの笑顔が見たくて教師を目指したんだった。
だったら、この選択は間違ってなかったんだ。
目の前の晴れやかな表情が、そう確信をもたらしてくれていた。
優しくてふんわりした笑顔は、すましていたときよりも少女の雰囲気にぴったりで。こんないい子と一緒なら、楽しくやれそうだなあと、今後の生活に思いを馳……。
「でもはせがわさん、いい人すぎますよ。こっちの思う通りに動いてくれすぎです」
「……はい?」
「普通、『僕が預かります!』の前に、なんでこんな小学生をひとりで住まわせるんだとか、おじーちゃんに聞いたりするよね? ささっと決めるからびっくりしちゃった。ちゃんといろいろと答えも用意してたのに」
はい?
「でも面倒を見てもらえるなら、特に過程は問わないけどね」
はいっ?
「ちなみにさっきのシェア候補のくだりも嘘だよ? よくわかんない人と、かわいいわたしが一緒に住むわけないじゃんっ? あ、悪いようにはしないです。お金を取ったり売ったりもしないし、むしろうちのパパからわたしの生活費とか、たくさんもらえるんじゃないかなー? わたしは保護者、あなたは安いお家に住みたいってゆう利害関係一致的な感じで、とりあえず仲良くしましょーね。わたし、
はいいいいいいいーっ!?
前言、超撤回っ! なんだこいつ、二重人格か!?
なにがゆるふわ笑顔だ、なにが泣くのを我慢してるだ。
ぜぜぜ全部、嘘だったのかよっ!?
少女がしたり顔で差し出す手を、僕は握ることができずに立ち尽くす。
呆れてため息をつき、少女が背中を見せて去って行くまで。
不肖、
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