第6話 扉の向こうは……

「わ、分かったよ、ご褒美ってコトで」

「は~い。ありがとうございます~」


 主張はしたんだよ?粘ったさ。

 俺が渡したのは、落とし物の帽子であって、招待状などではないって。

 聞いてくれないんだもん!「招待状にしか見えないです~」って言うばかりで。


 まあ、お茶やらサンドイッチやら頂いたし、3333冊記念だ?て言われたし、それに時間も遅くなってきたし。ご褒美とやらをサッと受け取って出て行きゃ良いかって思ってしまった。少々めんどくさくなってきたし、怪しいし。

 で、最初の言葉だ。


 翡翠さんは、ニコニコと何かをタブレットに打ち込み、また図書館のカードをキュッっとリーダーに通している。と、タブレットの横からピランと細長い紙が出てきた。それをピッと切ると、確認した後軽く頷いてカードと共に渡してきた。


「はいこれ、入場券のようなものです。カードと一緒に持っていてくださいね~」


 受け取って紙を見てみると。


「読めない」


 何だか、見たことのない文字(?)が並んでいる。冗談みたいにさっぱり読めない。ホントに文字なのか?と疑ってしまうほど、文字っぽくない。


「ああ、ご心配なく、担当者は読めますから~。持っていれば大丈夫ですよ」

「そうなの?」

「はい」


 そして、俺の借りてきた本をテーブルに並べると、一冊を選び出した。


「これが、3333冊目の本ですね。これにしましょうね~」


 俺に渡してきたのは、あの絵本だった。

『いろんな まど』という、しかけのある絵本。他は袋に入れてテーブルに再び置いた。

 そして、俺を奥の観音開きの扉までつれて来た。

 もう、こうなったら楽しむしかない。帰りが遅くなっても、明日は土曜日だ。と、自分に言い聞かせていた。そうなると、足取りも少しは軽くなるものだ。翡翠さんに促されるまま、扉に向かう。

 扉をよく見ると、ドアノブのすぐ横にスリットが開いている。幅がちょうど持たされた用紙と同じようだ。思った通り、翡翠さんが言う。


「その紙を、そのスリットに入れてください」


 言われて、恐る恐る差し込むと……

 シュンッ!と、恐ろしいくらいの勢いでスリットに飲み込まれていった。思わず、スリットをジーッと見つめていたら、今度は扉が……


「消えた?」


 そう、扉がフッと消えたんだ。最初から無かったように。


「さ、ここからはお一人でどうぞ」

「え?でも、どこに?」


 扉が消えて、目の前に現れたのは、ずーっと先まで延びる廊下と、両脇にずらりと並ぶ数え切れない程の扉だった。

 どれに入れと?


「進めば分かりますよ。ご遠慮なく~」


 クルッと廊下の方に体を向けられたと思ったら、背中をポンと押された。思わず数歩進むと、観音開きの扉があったラインを越えた。

 すぐ後ろで、パタンと音がしたので、振り向くと……


「え?扉が」


 そう、消えた扉がまた現れた。そして、ちょっとの違和感。扉をジーッと見てみる。


「ドアノブ無いじゃん」


 うん、開けられないぞ。ちょっと焦るが、扉の向こうから今では聞きなれたあの語尾が伸びてるあの声が聞こえた。


「楽しんできてくださいね~」

「あ……はい」


 まあ、とって食われたりはしない、はずだ。(自信は皆無だけど)

 仕方ないな、進むか!

 空元気で歩き出した。もう、すっかりファンタジーな世界だわ。


 扉の向こうは、扉がいっぱいでした。

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