3-3

 祭りの当日。帰ってきたテストの結果は全員満足いくものだった。

 奏太も赤点取ることはなかったし、亜希ちゃんと美空も全て平均点を大きく超えている。

 そして僕はなんと学年で13位という順位を取ることができた。安心して全員で祭りを楽しめそうでよかった。

「じゃあ行ってくるよ」

「いってらっしゃい、お兄ちゃん。舞花も後で友達と行くかも」

「わかった。気をつけてね」

 僕は家を出て集合場所に向かった。昨夜は雨が降ったが今日は雨も降っていないし暑すぎない少し曇りくらいの天気で、暑いのが苦手な僕にとってはちょうどいい。

 集合場所に着くとすでに奏太が来ていたのでお互い手を挙げて挨拶をする。

 美空は亜希ちゃんを駅に迎えにいってから一緒にくるらしい。

「にしてもお前が祭りに行くなんてな。中学時代は俺と美空が強制的に連れて行かなかったら遊びにも行かなかったのに」

「うるさいな。まあでも確かに高校入ってからはみんなで遊ぶのも悪くないって思ってるかも」

「ははっ。いいことじゃん」

 こんな話は奏太にしかできない。同性の親友ということもあり、ある意味では一番自分の弱いところを晒せる相手だ。

「朋己ー。奏太ー。お待たせー」

 集合時間の5分前くらいに美空と亜希ちゃんが来た。声のかかるほうを振り返ると、僕は思わず固まってしまった。亜希ちゃんが浴衣を着ていたからだ。

「おう。亜希ちゃん浴衣なのか気合い入ってるな」

「おばあちゃんがせっかくだから着ていきなっていうからね。ちょっと恥ずかしいけど……」

「恥ずかしいことなんかないよね。亜希めちゃくちゃ可愛いよ。ねぇ朋己?」

 そう言って美空は僕の方を見る。でも僕はなぜか亜希ちゃんの浴衣姿を直視しることができなかった。

「う、うん」

「あれ、朋己〜。女の子が浴衣着てきたらちゃんと褒めないと」

「ああ、うん。似合ってるよ」

 なんとか言葉を搾り出して言われたように亜希ちゃんを褒める。なんだか顔が熱い。

「なんか言わされてる感……。でもありがと。今日は楽しもうね」

 亜希ちゃんのその言葉で僕たちは祭りの会場に向かって歩き出した。歩いているうちに顔の熱も冷めていき、亜希ちゃんの浴衣姿も見慣れることができた。

「ライブまではだいぶ時間あるし少し屋台でも回ろうぜ」

 奏太のその提案にはみんな大賛成でまずは屋台の方を軽く回ることになった。

 祭りに来るのは去年無理やり奏太と美空に連れ出されて以来だ。つくづく思うのだが、屋台の食べ物というのはクオリティの割の値段が釣り合っていないと思う。場所代、雰囲気代といったところだろうか。盛り下がるのがわかっているので口には出さないが。

 その時、数m先の人混みの方から声をかけられた。

「あれ? ともみんとあっきーじゃん!」

「本当だね。相変わらず仲がいいな」

「つぐみちゃん! 薫ちゃん!」

 この2人は僕と亜希ちゃんのクラスメイトの七瀬つぐみさんと瀬戸薫さんだ。2人ともクラスの中心的な存在であり、亜希ちゃん以外のクラスメイトとほとんど交流していない僕が話すことがある、数少ない人たちだ。七瀬さんは少しだけ茶色がかった黒髪のロングヘアーとサイドテール、僕より少し低い身長が特徴だ。ちなみに独自のあだ名をつける癖があり、僕はともみんと呼ばれている。

 瀬戸さんは女子の中でもかなり背が高い美空よりも身長が高く、短めの黒髪とキリッとした瞳とすらっとした体格が特徴のボーイッシュな印象を与える女子だ。

 2人とも分け隔てなくクラスメイトと接するためみんなから頼られている。

「友達?」

と違うクラスの美空が僕と亜希ちゃんにきく。

「うん。同じクラスの七瀬つぐみさんと瀬戸薫さん」

 僕は2人を手で示しながら美空と奏太に紹介する。

「2人ともよろしく。私はC組の西川美空です。朋己とは幼馴染だよ」

「B組の沢村奏太。朋己と美空とは中学が一緒だ」

「うんうん。美空っちとそうたろね。よろしくよろしくー」

 早速2人にあだ名をつけたみたいだ。この距離を一瞬で詰めるのに相手に不快感を与えないこの感じは誰にも真似できない。

「美空っち?」

「そうたろ?」

「2人とも驚かせてしまってすまないね。つぐみはすぐにあだ名をつける癖があるんだ。朋己と亜希を通じてこうして出会えたのも何かの縁だ。これからよろしく」

 常に落ち着いていて思いやりがある瀬戸さん。時々突っ走りがちな七瀬さんを冷静に諌めることもある。この2人はいいコンビだ。

 そのとき七瀬さんが浴衣を着ていることに気づいた。亜希ちゃんの時は褒めるのが遅れてぎこちなくなってしまったので、今度は反省を生かしてすぐに褒めなくては。

「七瀬さん。浴衣似合ってるね」

「ほんと? ともみんありがとー」

「いやい……ぐふっ」

 その時なぜか亜希ちゃんに脇腹を殴られた。隣を見ると少しつんとしている。どうしたんだろう。

「ふふっ。あっきーも浴衣似合ってるよ。めちゃくちゃ可愛い!」

「ありがとー。つぐみちゃんこそめちゃくちゃ可愛いよ」

 七瀬さんに褒められて機嫌が直ったようだ。

「2人ともすごく似合っているよ。そういえばみんなはライブは観るのかい?」

「うん。僕たちはそのつもりだよ。2人も?」

「そうだよー。かおるちんがRINNEの大ファンなんだ」

「実はそうなんだ。つぐみに付き合ってもらって、前座に陽華高校の軽音部の生徒が演奏するらしいから、それから観ていい席を確保するつもりだよ」

 瀬戸さんはよっぽどRINNEのファンらしい。自慢になってしまうので控え室に入れることは黙っておこうと思った。

「じゃあ、ライブ一緒に観よう! 私もRINNEの大ファンなの!」

 亜希ちゃんが瀬戸さんの右手を両手で掴んで言う。瀬戸さんはその勢いで少し驚いたようだが、普段七瀬さんと一緒にいるだけあってこういった子への扱いは慣れている。

「そうだね。それじゃあライブのときまた会おう」

 こうして僕たちは一旦別れてライブのときに再び合流することになった。

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