3-2
その後もテストまでの間何度か勉強会をした。場所は基本的に図書館やカフェなどだ。
勉強会を繰り返すなかで奏太も徐々に内容を理解してきたようで赤点を取ることはなさそうというレベルにはなった。
そしてついに高校に入学してから初めてのテストの日を迎える。
勉強会の成果もあって、僕はかなりスラスラ問題が解けた。これなら学年上位も狙えるかもしれないというほどだ。
そしてテスト最終日。最後の現代文のテストを終える。
「ん〜。疲れた〜。でも勉強会のおかげでかなり手応えがあったよ」
テスト終了後のホームルームを終えて、亜希ちゃんは大きく伸びをしていた。
「そうだね。僕もそう思う。あの2人はどうだったかな」
「ちょっと聞きに言ってみようか」
亜希ちゃんの提案に乗って、僕たちはとりあえず奏太がいるB組の教室を目指す。
「……いたね」
「うん。なんかあいつ老けたね」
奏太は疲弊し切っており心なしか体も小さく見える。
「ん? おう2人ともお疲れ」
「お疲れはこっちのセリフだよ。で、テストは大丈夫だったの?」
ここまで萎れている様子だと心配になる。
「多分な。まあ赤点はないんじゃないか? 結構解答欄は埋めれたし」
「それはよかった」
「おっすー! みんな何話してるの?」
そのとき僕たちの輪に教室から出てきた美空も入ってきた。
「あ。美空ちゃん。奏太くんのテストの話してたんだよ」
「そっかそっか。大丈夫だった?」
「多分な。あんなに教えてもらって赤点は取れねぇし」
勉強はできないが奏太は義理堅い男だ。
「テスト返ってくるまでドキドキだね。とりあえずお疲れ様っていうことで今日は打ち上げでもしない?」
美空の提案にみんな賛成して僕たちはこの後打ち上げに行くことになった。
「じゃあ久しぶりのうちの店でもくるか?」
「そうだね。そうしようか」
「私もそれでいいよ。結構久しぶりだね」
「奏太くんの家のお店?」
この中で唯一中学校が違う亜希ちゃんだけは置いてけぼりになってしまっている。
「ああ。ごめんごめん。奏太の実家はお好み焼き屋をやっているんだ。僕や美空はもう何回も行ってるよ」
「そうそう。美味しいんだよ。亜希はお好み焼きは好き?」
「うん。好きだよ。私も行ってみたい!」
ということでみんなで奏太の父さんが経営するお好み焼き屋『沢村屋』に行くことになった。
「ただいまー。父さん友達連れてきた」
「奏太お帰り。朋己くん、美空ちゃん。久しぶりだね」
「お久しぶりです」
奏太の父さんは僕たちを迎え入れてくれたあと、少し後ろを歩いている亜希ちゃんに目をやった。
「ん? 後ろの子は初めてだね。新しい友達かい?」
「はい! 進藤亜希です。よろしくお願いします!」
「おう! まあ狭い店だけどゆっくりしてきな」
奏太の父さんはいかにもお店の対象といった豪快で男らしい性格だ。
「じゃあ父さん。適当に座るぞ」
僕たちは4人がけのテーブル席に腰掛ける。僕の隣に奏太、正面に亜希ちゃん、その隣に美空が座っている。沢村屋はお好み焼きを焼いて持ってきてくれるタイプのお店だ。
「ミックスでいいよな。4人だから2枚でいいか」
いつもミックスを頼む僕と美空はもちろん、初めてきた亜希ちゃんもそれに頷いた。
「父さん! 頼む!」
「はいよ!」
快活な返事と同時におじさんはお好み焼きを作り始めた。
「いやー。でも本当に勉強会やってよかったな。追試もないだろうし、部活に集中できるぜ」
「まだわからないけどね。まあ手応えがあるなら何よりだよ」
解答欄もかなり埋めれたみたいだし、赤点を取ることはよっぽどのことがない限りないだろう。
「私も結構手応えあるよ! 少なくとも平均点は全部超えてそう」
亜希ちゃんは授業中やこれまでの勉強会で様子を見る限り、成績が悪いとは思えないので大丈夫だろう。
「私も苦手な英語を乗り越えたから大丈夫そう。亜希と朋己のおかげかな」
「そんな大したことはしてないよ。でもみんな上手くいったみたいで何よりだね」
今回のテストについて雑談しているうちに、おじさんがお好み焼きを持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
「おお。ゆっくりしてきな」
僕たちの目の前にソースの匂いも芳しいお好み焼きが並ぶ。
「じゃあ食べるか」
「うん。いただきます」
「「いただきます」」
それぞれ半分に分けて取り皿によそう。箸で切って口に運ぶと出汁の風味が香るふわふわのお好み焼きの味が口の中に広がる。
「うん。やっぱり美味しいね」
「ほんと! こんな美味しいお好み焼き初めて!」
初来店の亜希ちゃんも気に入ったようだ。
「私も定期的に食べたくなるんだよね。高校入ってから忙しくてなかなか来れなかったからこの味が恋しかったんだ」
「俺も小さい時から何度も食べてるけど飽きないな」
このお店は知る人ぞ知る名店と言ってもいいお店で、ご飯どきの時間は常連がたくさん訪れる。
その後しばらくは4人とも目の前のお好み焼きを無言で食べ続けた。
食べるのがひと段落ついたところで奏太が思い出したように言う。
「そうだ。そういえば今度近くの神社でやる祭りで地元出身のアーティストがライブやるんだけど知ってるか? RINNE《りんね》っていうんだけど」
RINNNEとは僕たちの地元である星河出身の新進気鋭の女性シンガーソングライターだ。全国的には無名だが、たまに深夜番組などに出ることはある。
「え! RIINNEが来るの!? 私大好きだよ」
亜希ちゃんがテーブルの上に乗り出すような勢いで言う。
「そういえば来るんだったね。私もけっこう聴くよ」
RINNEはどちらかというと若い女性に人気だ。
「僕はあんまり聴かないかな。何曲かは知っているけど」
僕はどちらかというとバンドが好きなので、シンガーソングライターはあまり聴かない。
「そうか。俺もそんなに聴かないんだけどさ。みんなで行かないか? その日は午前中で部活終わりなんだ」
「いいね。私も部活は午前中までだよ」
「行きたい! RINNE見れるなら絶対行く!」
2人とも奏太の提案には賛成のようだ。僕も反対ではない。全員が僕の方を向くので、僕は頷くことで肯定の意志を示した。
そのとき水のおかわりを持ってきてくれたおじさんが声をかけてくる。
「その祭りのライブなら俺も運営に関わっているぞ。そうだ。みんな俺のバカ息子の勉強を見てもらったお礼に、控室に入れてやろうか。もしかしたら少しくらい話せるかも知れないぞ」
「え! いいんですか!?」
大ファンの亜希ちゃんからしたら最高の提案だろう。
「じゃあ、みんなで行くか。その頃にはテストの結果もわかってるしな。当日は夕方頃に集合しようぜ。細かいことはまた連絡する」
こうして僕たちはみんなで祭りに行き、ライブを観ることになった。
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