第3話 切れる糸と切れない糸

3-1

 改めて言うまでもなく僕たちは高校生だ。そして高校生の本文といえば勉強だ。

 当然のように傘の在処を探したり、幽霊の正体の謎を解いているだけではいけない。テストの問題を解かなくてはいけない。

 テストまであと2週間を切ったある日。あの幽霊事件以降よく一緒にいるようになった4人。僕、亜希ちゃん、奏太、美空の4人でテストの話をしていた。

「ああああ。マジで勉強わかんねぇ。授業にも全然ついていけねぇし。このままじゃ赤点取っちまう」

 奏太がいつもの元気はどこへやらという沈んだ様子で言う。

「確かにねー。私は理系科目はついていけてるけど英語はかなりやばいよ。亜希と朋己はどう?」

「私も高校の勉強は結構苦労してるよ。特に理科が苦手で……」

「僕はまあなんとか……。一応普段から勉強しているし」

 帰宅部の上に休みの日に友達と遊ぶこともほとんど皆無と言っていい僕は勉強をやる時間がたくさんあるので、授業には問題なくついていけている。

「朋己は頭いいもんな。俺も普段から勉強しておけばよかったぜ」

 奏太は運動神経はいいが成績はかなり悪い。星河高校には僕と美空のスパルタ指導の勉強でなんとか合格した。

「ねぇ。それじゃあさ、今度の休みの日にみんなで勉強会しない? 私も英語を教えてもらいたいし、奏太もこのままじゃ大変でしょ? お互い教え合えば復習にもなるしね」

 美空の提案はもっともだ。僕も舞花に勉強を教えたとこは特に身に付く。

「いいねー。私も家でひとりでやるより捗りそうだから勉強会したい!」

「俺もぜひお願いしたいぜ。このままじゃ追試祭りになっちまう」

 確かに奏太が赤点まみれになって、追試に追われたり最悪留年何てことになったらかわいそうだ。

「僕も大丈夫だよ。場所はどうする?」

「OK! じゃあ私の家にしようか。土曜日は両親とも家にいないから、遠慮せずうちを使って」

 みんなそれに反対することは当然なく、土曜日は美空の家で勉強会をすることになった。

 

 土曜日。美空の家を知らない亜希ちゃんを案内するために、学校前に美空以外の3人で集合してから向かった。

「そういえば俺、美空の家に行くのもかなり久しぶりだな。朋己は?」

「僕もちょっと久しぶりかな。高校に入ってからは行ってない」

「私はもちろん初めてだから楽しみー」

 などと雑談しながら美空の家に向かう。そういえば亜希ちゃんと休日に会うのは初めてだ。教室ではよく一緒にいるが亜希ちゃんが電車通学ということや、僕の性格もあるのでプライベートで遊ぶには至っていなかった。今日は勉強会だが。これからはたまに遊びに誘ってみるのもありかもしれない。

 などと考えていると美空の家に着いた。美空の家は青い屋根と白い壁が特徴の2階建ての一軒家だ。小さい時から数え切れないほど来ているので、緊張することなくチャイムを押すと、中から「はーい」と元気な声が聞こえて玄関のドアが開く。

「みんないらっしゃーい。上がって上がって」

 僕たちは美空の部屋へと通され、用意してくれていたローテーブルの周りに座り、それぞれの勉強の準備をする。

 美空が飲み物を用意するために席を外している時に、興味津々といった様子で美空の部屋を見ている亜希ちゃんは部屋にあるアコースティックギターに目が止まったようだ。

「あれ? 美空ちゃんてギターとかやるの?」

「たまに弾いているみたいだよ。軽音部とかに入ったり、人前で演奏したりするほどじゃないらしいけどね」

「親戚から貰ったからちょっとだけね。気晴らしにたまに弾くくらいだよ」

と人数分の飲み物を持って戻ってきた美空が言う。

「へ〜。美空ちゃんの新しい一面を知れたよ」

と亜希ちゃんは嬉しそう。

「まあまあそれは置いといて、勉強始めようか。みんなで同じ教科やった方がいいよね?」

「そうだね。その方が教え合いやすいし。奏太。何が一番やばい?」

 今回の勉強会は特に奏太のために開かれたものなので奏太に尋ねる。

「全部だけど特に数学だな。公式が呪文にしか思えねぇ」

「はいはい。じゃあ数学にしよう」

 僕のその一言で亜希ちゃんと美空も数学の勉強を準備し始めた。

 勉強を開始してしばらくして。

「朋己。これはどうやるんだ?」

「これはこの公式を使って……」

「わかった。サンキュー」

 それから数分後。

「朋己。これは?」

「ここはこの公式を応用して……」

「なるほどな。やってみるわ」

 また数分後。

「朋己。これは……」

「奏太! さっきから朋己に聞いてばかりじゃん! ちょっとは自分で考えなよ!」

と奏太が美空に怒られる。

「す、すまん。どうしてもわかんなくて……」

「僕は別にいいけど」

「奏太くん……。普段の授業はどうしているの?」

 確かにこの様子では普段の授業の内容も理解できていないのだろうと心配になってしまう。

「ちゃんと聞いてはいるんだけど、すぐに忘れちまうんだ」

「それは……。それにしても朋己くん。教えるの上手だね」

「まあ奏太に勉強教えるのにも慣れてるしね。普段も妹に勉強教えることもあるし」

 何気に言ったこの言葉に亜希ちゃんが食いついた。

「朋己くん! 妹さんいたの?」

「あれ。言ったことなかったっけ。ひとつ下の妹がいるよ」

「知らなかった……」

 確かに言っていなかったかもしれない。自分からわざわざ話すことでもないし仕方がない気もする。

「可愛い妹だよね〜。朋己。舞花は元気?」

 美空は突然舞花のことは知っている。舞花も美空お姉ちゃんと呼んでいて、かなり懐いている。

「相変わらず元気だよ。今日は舞花も友達の家で勉強会らしい」

「妹の方は兄貴と違って明るくて元気だもんな」

 奏太が失礼なことを言ってくる。事実だが。

「うるさい。奏太こそお姉さんは元気?」

「ああ。多分元気じゃないか? 一人暮らし始めてからろくに連絡ないからわかんねぇけど」

「奏太くんはお姉さんがいるんだね。なんとなく兄弟いるとしたら下の方かと思ってた」

 ちなみに奏太は姉には絶対服従だ。体格は奏太の方が大きいが幼い頃から刷り込まれた意識はなかなか変わらない。それは奏太のお姉さんである優希ゆうきさんが大学に入学して一人暮らしを始めた今も変わらない。

「亜希ちゃん。奏太のお姉さんは弟と違って頭が良くて優秀なんだよ」

と僕がさっきの意趣返しをすると奏太は何も言えないと言う様子でぐっと黙り込む。

「兄弟いいなー。私は一人っ子だから羨ましい」

 確かになんとなく亜希ちゃんは一人っ子っていう感じがする。

「亜希。私もだよ。一人っ子同盟だね」

 美空がそう言うと2人は向き合って笑い合った。

「まあ美空には手のかかりまくる弟みたいなのがいるけどな」

と奏太が僕の方を見て言い、僕以外の3人が笑う。ひとしきり笑うとみんなまた勉強に戻った。

 こうして時折雑談を交えながら勉強をする。確かに家で1人でやるよりも捗るような気がする。

 しばらく勉強を続けているといつの間にか外が暗くなったので、今日のところは解散することになった。

 またたまに放課後などに勉強会をすることを約束し美空の家を出る。

 僕と奏太は亜希ちゃんを駅に送ってから家に帰った。

 家に帰ってご飯とお風呂を済ませた僕は、少し今日やった分の復習をしてから寝た。

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