2-6

 僕は自分が思いついた可能性を確かめるために何件か連絡をとることにした。

 メッセージアプリを起動して通話をかける。通話相手は3コールで出てくれた。

「もしもし、美空。いきなりごめん。今大丈夫?」

「朋己? 大丈夫だよ。どうしたの?」

 いきなり通話をかけた僕を特に疑問に思うこともなく、美空は話を聞いてくれた。

「うん。ひとつ聞きたいんだけど、一色さんの誕生日っていつかわかる?」

「絵美の誕生日? 日にちまでは覚えていないけど4月末だったはずだよ」

 やはり。僕は自分の推論が正解かどうか確かめるのに必要なピースをひとつ当てはめることができた。

「わかったよ。ありがとう。美空。もうすぐ今回の謎は解けると思うよ」

「OK。楽しみにしているよ。朋己」

 そう言って僕たちはおやすみの挨拶をして通話を終えた。まだ確定していない段階で僕の推論を聞いてこなかったのはありがたい。幼馴染だけあって僕が自信のない段階で話をするのが好きじゃないのを知ってくれている。

 そして僕は次はメッセージアプリを使って、ある奴に明日少し早めに来て欲しいですということを連絡する。

 僕がお風呂に入っている間にそいつから返信があり、了承してくれた。

 そのメッセージに返信をした後、僕は明日の分の宿題を片付けて眠りについた。


 次の日の登校中、学校が近づいてきたところで僕の頭上の方から声がかけられた。

「朋己。早めに来いってのはなんだ? 俺は難しいことはわからねぇぞ」

 声をかけてきたのは奏太だ。僕は奏太に頼みたいことがあって、昨日のうちに連絡をしておいた。

「大丈夫。頭を使うようなことじゃないよ。奏太。警備員さんに聞いてほしいことがあるんだ。幽霊について知っているかどうかをね。それともうひとつ。話をしながら宿直のシフト表を覗いてみてほしい」

「ふーん。よくわからねぇけどわかったよ。やってみるわ」

 僕は入り口の警備員室にいる今の時間を担当している警備員さんに声をかけに行く奏太の後ろについて行った。

「すいません、警備員さん。知ってます? 最近美術室で幽霊の噂が出ているらしいんですよ」

 奏太は警備員さんに警戒心を持たせないフランクな口調で話かける。奏太に頼んでよかった。僕ならこうはいかない。

「ん? 美術室の幽霊? さあねぇ。ちょっとわからんねぇ。まあ丑三つ時ならまだしも、早い時間の幽霊なんてかわいいもんさ」

「そうっすか。ありがとうございます。えーと……」

「俺は渡辺だよ。まあ、またなんかあったらいつでもおいで」

 ナイスだ奏太。この人の名前を聞いているということはこの人の発言に違和感があるのに奏太も気づいたのだろう。

「ありがとうございます。渡辺さん」

 僕たちはそこを離れて学校の玄関に向かって歩き出した。

「朋己。今のは俺でもわかったぜ。あれでよかったんだろ?」

「うん。ありがとう、奏太。それで、渡辺さんが次に夜の宿直になるのはいつだった?」

「明日だったよ。間に合いそうか?」

 やはり奏太は勉強はできないがバカというわけではない。僕が真相に近づきつつあることにも気づいているようだ。

「おかげさまで」

「そっか。じゃあそれまでは俺も聞くのを我慢してやるよ」

 そう言って僕たちは顔を見合わせて笑い合った。


 昼休み。僕は亜希ちゃんと弁当を食べていた。

「朋己くん。昨日のこと何かわかった?」

「実はちょっとね。これからちょっとある人に聞かなきゃいけないことがあるんだ。亜希ちゃんも付いてきてくれる?」

 僕がそう言うと亜希ちゃんはここ一番の笑顔を見せた。

 弁当を食べ終わった後僕たちは一緒に廊下に出て1年E組の教室を目指す。

 入り口にいた生徒に頼んで、僕の尋ね人を呼んでもらった。

「黒崎くんと進藤さんだっけ? どうしたの?」

 尋ね人の長谷川さんは快活な笑顔で、いきなり訪ねてきた僕たちを迎えてくれた。

「うん。ひとつ聞きたいんだ。昨日、美術部の部長さんと一色さんて普通の部活の先輩後輩の関係には見えなかったんだけど、元々仲良かったりするの?」

 昨日の様子を見て思った。僕たちが学校に入学してからまだ1ヶ月も経っていない。それにしては2人の昨日の言い合いは遠慮のないものに思えた。

 僕の質問に対して長谷川さんは、少し驚いたように目を見開いたあと、ニヤリと笑って言った。

「うん。そうだよ。あの2人は中学の時も同じ美術部の先輩後輩。ちなみに私もなんだけどね。でもあの2人は当時から特に仲が良かったよ」

 やはり。これで僕の推論の線が全て繋がった。

「やっぱりね。ありがとう。長谷川さん」

「どういたしまして。まあ、正直私も幽霊の正体を明かす必要なんかないと思うんだけどね。絵美のあの様子を見たら何も言えないよねー」

「そうだね。僕もそう思う」

 僕たちは手を振って別れ、それぞれの教室に戻った。

「朋己くん。どう? わかった?」

 亜希ちゃんが期待する様子で僕に訪ねてきた。

「うん。そうだな。あさってくらいには結論を伝えられると思う」

「わかった! じゃあ楽しみに待ってる!」

 亜希ちゃんの笑顔に僕も笑顔で答えた。

「明日か……」

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