第2話 解くまでもない謎

2-1

 傘を探したあの雨の日から、1週間ほど経ったある日。僕は皆とわいわいとまではいかないが、周りにいる生徒などとたまに言葉を交わす程度にはなった。

 やはり友達がひとりできるだけで、自分の心持ちも変わってくるものだ。

 基本的にはあの日友達になり、席替えをした結果席が近くなった亜希ちゃんと話すことがほとんどだ。

 亜希ちゃんは肩まで伸ばした綺麗な黒髪とぱっちりとした丸くて大きな瞳で、僕よりも身長が低い小柄な女の子だ。

 お互い読書が趣味ということで、本の話をする事が多い。

 昼休みにそれぞれお弁当を食べ終わった僕たちは、亜希ちゃんの席の近くで話をしていた。

「最近読んだ本で面白かったのは何?」

「私は灰谷美咲はいたにみさき先生の『暗い場所から』が面白かったよ。ずっとハラハラして読んじゃったな〜。朋己くんは灰谷先生読んだことある?」

 灰谷美咲というのは最近人気のミステリー作家で、本名、性別、年齢、容姿等全てが不明の新進気鋭の作家だ。

 不意打ちでその名前が出て驚いたが、なんとか動揺を隠して返事をする。

「うん、あるよ。どれも面白いよね」

 手前味噌な意見にはなってしまうが、面白いのは事実である。

「早く新作読みたいね」

 そう遠くないうちに新作が読めるであろうことは黙っておく。

 そのとき不意に教室の入り口の方から僕に声がかけられた。

「朋己ー。今ちょっといい?」

「美空? 教室に来るなんて珍しいね。どうしたの?」

 西川美空にしかわみそらは僕の幼馴染で、高めの身長と茶髪のポニーテールが特徴の女子だ。幼稚園の時から一緒で、2年半前に僕が引っ越すまでは家も近所だったので、よく遊んでいた。もちろん引っ越してからも交流が続いている。

 数少ない僕の友人のひとりで、中学時代とあるきっかけで失意のどん底にいた僕を支えてくれた恩人だ。

「ちょっとね。あれ。その子はお友達?」

「そう。友達の進藤亜希ちゃんだよ。亜希ちゃん。この子は僕の幼馴染の西川美空」

 両者を知る僕がお互いを紹介する。

「亜希ちゃん、よろしくね。西川美空です」

「うん! こちらこそよろしくね。美空ちゃん」

 出会ったばかりの2人で親睦を深めているところ悪いが、僕は美空にここまできた要件を聞いた。

「ところで美空。何かあったの?」

 美空は思わず忘れていたという様子で僕たち2人を視界にとらえて言った。

「ああ。そうそう。ねぇ2人とも。星河高校の七不思議。美術室の幽霊って知ってる?」

「「美術室の幽霊?」」

 美空の突飛な発言に2人の声がハモった。

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