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学校の七不思議。ある程度どの学校にも存在するのだろう。どこどこに出る幽霊やら段数が変わる階段やら、音が勝手になるピアノやらトイレの某やら定番化している。
星河高校にもそんなものがあるというのは知らなかった。
そもそも七不思議というのはなんなんだろう。学校はそこにあり続けるものだが、そこに通っている生徒は毎年変わる。つまり一定の七不思議というものは存在しないはずで、その年代によって内容も数も変わるものだと思う。
つまり何が言いたいのかというと、僕はそういった七不思議などのくだらない噂話があまり好きじゃないということだ。オカルト的なものを頭ごなしに否定するわけではないが、噂に流されるというのがどうにも嫌なのだ。
まあ、こういったくだらない噂が流れるということは僕たち1年生にも余裕が出てきたということだろう。
そんな冷めたことを考えていたところで、僕の内心が顔に出ていたのか、長い付き合いゆえに僕がこういう話が好きではないことを知っているからなのか、美空が僕に向かって言った。
「朋己。そんなつまらなそうな、面倒くさそうな顔をしない。亜希ちゃんを見てみなよ」
美空に言われて亜希ちゃんの方を見ると、いかにも興味津々といった様子で目を輝かせていた。
亜希ちゃんのその様子を見て、水をさすのも悪いと思いわざとらしくため息をついて美空に話すように促した。
「相変わらずだね、朋己。でも実は話すのは私じゃないんだ。私に相談してくれた美術部の子なんだけど、ここに呼んでもいい?」
「どうぞ」
僕がそう言うと美空は教室のドアの向こう側に立っていた女子生徒を連れてきた。メガネをかけている知的そうな女子だ。
「この子は同じクラスの
美空がそう紹介してくれたので、僕たちも自己紹介をする。
「A組の進藤亜希です! よろしくね」
「黒崎朋己です」
そう言って軽く会釈すると改めて一色さんが自己紹介をしてくれた。
「C組の一色絵美です。今日は変なお願いをしちゃってごめんね」
と申し訳なさそうな顔で言う。
「気にしないで! ところで幽霊って?」
待ちきれない様子の亜希ちゃん。出会って秒でいきなり怪談をするというのはどうかと思う。
「うん。1週間前くらいのことなんだけど、私の美術部の友達が次の日学校に提出する課題のプリントを学校に忘れちゃったんだって。それで、完全下校時刻は過ぎていたけど、当直の警備員さんにお願いして学校に入れてもらったらしいの」
星河高校の一般生徒の完全下校時刻は19時だ。
「教室でプリントを無事に回収したらしいんだけど、そのときふと窓の外に違和感を感じて見てみたら、反対側の特別教室棟の美術室に人魂みたいな光があって、カーテン越しに人影も動いていたらしいんだ」
なるほど。まあありがちな話だ。
「それで? まさか僕たちにその幽霊の正体を暴いてほしいとか言うんじゃないだろうね」
「ちょっと、朋己くん! そんな言い方良くないよ」
と亜希ちゃんに窘められるが、やはり僕は疑問だ。同じクラスの美空の幼馴染とはいえ、会ったばかりの僕に、ただ幽霊のことを相談するなんて馬鹿げている。
「当たらずとも遠からずかな。私自身は幽霊の正体なんか興味ないんだけどね。その幽霊を見た友達が軽い気持ちで、クラスの友達に話したらその子が噂を広めちゃったらしくて。それでそのせいで、部活中に話を聞きに来る人がいたり、部室を見にきたりする人がいて迷惑してるんだ。だから幽霊なんかいないことを証明して、そういうくだらない噂をなくしちゃいたいの」
そういうことかと納得した。美空が相談相手としてどうして僕を紹介したのかも。
「黒崎くんは昔こういう七不思議みたいな噂を全部現実的に証明してきたって、美空ちゃんに聞いたから協力してほしいなって思って相談したんだ」
確かに僕は小学生のときも噂で流れていたくだらない怪談のカラクリを現実的に解明して、美空や当時の周りの友人に「つまんない!」と言われたことが多々あった。
「不躾なお願いだっていうのはわかっているの! でも平穏な部活を取り戻して、絵を集中して描けるように協力してくれないかな」
そう言って一色さんは頭を下げた。
そう言うことなら協力もやぶさかではないかもしれない。特にくだらない噂で騒いでいる連中を黙らせたいというのには僕も共感した。僕はどう言ったものかと軽く頭の中で逡巡する。
「朋己くん! 私も幽霊の真相が気になるよ。一緒に考えよう?」
「どう? 朋己」
僕が断り文句を考えているのではないかとでも思ったのか、2人が心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。
「わかった。お役に立てるかはわからないけど、できる限り協力するよ」
「ありがとう。黒崎くん」
そのやりとりを見て、亜希ちゃんと美空が安心したように笑顔を浮かべた。
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