第1話 それは春雨の降る日に

1-1

 高校に入学して1週間がたったころ、少しずつ慣れ始めた、まだ雪が残る通学路を僕は2割の期待と8割の不安な気持ちを抱えつつ、妹の舞花と一緒に歩いていた。

「お兄ちゃん。高校にはもう慣れた?」

 隣を歩く舞花が僕の顔を覗き込むようにして訪ねてくる。

「まだあんまり……。勉強とか学校の教室の場所を覚えるので手一杯だよ」

「そっかー。やっぱり高校は大変なんだねー。新しいお友達はできた?」

 痛いところを突かれた。そう。僕はクラスに友達がいない。今のクラスに同じ高校から来た人がいないこともあり、クラス内でグループを作る流れに出遅れてしまった。

 正直、中学校にも友達は2人しかいなかったので、同じ学校から来た生徒がいても同じことだろうが。

 なので僕は昼休みは、コミュニケーション能力が高い人を中心としたグループや、同じ学校から来た人同士で形成されたグループなどを横目に、1人でお弁当を食べて、空いた時間はブックカバーがかけられた本を読んで過ごしている。

「いや……。うん。まあ……。これからだよ。うん」

 ひどく情けない返事になってしまった。

「うんうん。お兄ちゃんなら大丈夫だよ!」

 さすが長いこと僕の妹をやっているだけあって、多くを語らなくても僕のことがわかっているのだろう。

 舞花も多くを語らずに僕のことを励ましてくれた。我が妹ながらよくできた妹だ。

「うん……。ありがとう」

 僕も多くを語らずに答えた。

 その後もたわいもない話を続けていると、分かれ道に着いた。ここを左に曲がると僕が少し前まで通っていて、今も舞花が通っている中学校がある。

 そしてここを真っ直ぐ進めば僕が今通っている星河高校がある。

「じゃあね、お兄ちゃん。頑張ってね〜」

「うん。舞花も気をつけて行くんだよ」

 舞花はそれに手を振って答え、振り返って自分の通学路を歩いて行った。

 僕はその背中を少し眺めた後、自分の通学路を歩き出した。 

 通学路を少し歩いていると、聞き慣れた声がやや頭上から聞こえた。

「よう、朋己。相変わらずシケた顔して歩いてんな」

「僕は元々こういう顔だよ。奏太こそ相変わらず無駄にデカい図体してるね」

 僕は斜め上を見上げてそう言った。

「無駄には余計だよ。ちゃんとバスケで活かしてるだろうが」

「ふん」

 この男は沢村奏太。中学校からの付き合いで、僕の本当に数少ない友人のひとりだ。こう言うのは癪だが僕の親友だ。

 身長が180cm近くあり、その身長は本人も言うようにバスケに活かされている。

 身長が160cmにも満たない僕とはかなりの身長差がある。

「どうせクラスで友達できなくて一人で弁当食ったり、教室の隅っこで本読んだりしてるんだろ?」

「なんでわかるんだよ……。お前まさか見て……」

「見てねぇよ! 冗談がズバリのお前の日常が怖いわ」

 なんだ冗談か。心臓に悪いな。

「まあ大丈夫だろ。まだ入学したばっかりだし。慌てんなよ」

 そう言って頭をぐちゃぐちゃにされる。

「やめろよ。髪が乱れるだろ」

 そう言いながらも僕は、奏太のその手と言葉を温かく感じていた。

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