第9話 旅の前の一休み2
兎というものは案外生きやすい。
人同士でのしがらみがない分、気軽にぐーたらできる。
再び夜になり私は目覚めた。
夜になり目覚めるとはなんともおかしな話だけど、私の活動で最適なのが加護の力も相まって夜なのだから仕方がない。
目覚めた私はのびる。
ぐいーっと身体を伸ばし、力を入れる。
思考は良好。
私はどうやら夜行性でも体は問題ないらしい。
いや、私の加護を鑑みるにもともと夜行性が最適なのだろう。
正直、魔兎や魔魔兎が夜行性なのかは知らないけど、私は夜行性なのだ。
静かな森を歩く。
既にこの森の食物連鎖の頂点に君臨した私に襲い掛かってくる魔獣は最早いない。
それ程までに私は強くなりすぎてしまった。
今日、山へと向かおうと思ったけどめんどうくさいから森で過ごそう。
新天地へ行かないと、とは思っているけどなんとも怠い。
そう。
私はものぐさ兎だ。
ある程度強くなってしまったら、一度は目指すと決めたあの山に行くのも億劫になる。
一歩進んで、二歩下がる。
私の座右の銘。
進むことに価値なんて見いだせず、意味もない。
現状がよければそれでいいんだ。
と、そんなことを思いながら森を歩いていると茂みから覗くレッサーデーモンの姿。
私の記念すべき最初に倒した魔獣であり、今は格好の餌となってしまった哀れな魔獣。
相変わらず新米冒険者の中では恐れられているようだけど、もう私にとっては雑魚以外なにものでもない。
レッサーデーモンは頭が悪い。
だから、私との力の差なんてわからないし他の頭がいい魔獣と違い私を見つけたら問答無用で襲い掛かってくる。
「ギギギ」
鳴き声を挙げながら襲ってくるレッサーデーモンに私は溜息混じりで、タックルで応戦するのだった。
――――――
―――――
――――
―――
――
―
レッサーデーモンを倒し、魔核を食べながら歩く私の瞳の先。
む、あれは……。
森を少し開けたところ。
冒険者たちが開拓したであろう獣道。
そこに止まっている馬車とその周りに群がるレッサーデーモンの群れ。
馬車の周りには殺された冒険者風の人が数人。
恐らく護衛だろう。
メイドの恰好をした人がナイフを構えながら馬車を庇っていた。
レッサーデーモンは確かに雑魚だけど、人間にとってはきついものだ。
レッサーデーモンに蹂躙されようとしている馬車を、私は助けるつもりはない。
この森は弱肉強食。
運が悪かっただけ。
私はもうひと眠りしようとこの場を去ろうとして
「ぶぅ!!」
「だめうさちゃん!!」
声が聞こえた。
兎の鳴き声。
私ではない、魔兎の怒った声。
思わず振り向く。
そこには、馬車の中から出てきたのだろう魔兎がダンっダンっ!!とジャンプしレッサーデーモンを威嚇している姿。
その魔兎に近寄ろうとして護衛のメイドに止められている身なりの良い少女。
それを見て、じりじりと距離を詰めていくレッサーデーモン。
…………。
魔兎が狙われているとなれば話は違う。
それに、あの魔兎は少女のペットなのだろう。
鈴も首についていること、つやの良い毛並み、もっちりした身体。
さぞかし大切に飼われているのだろう、と羨ましくなってしまう。
もう、しょうがないな。
兎を助けてしまうのは最早私の性分みたいなものだ。
なにせ、兎を助けて兎になったんだから。
魔法行使 『
私は氷の矢を唱える。
生成された氷の矢は射出され、全てのレッサーデーモンの脳天を破壊した。
「え、魔法!?」
「いったい誰が……」
唖然としている少女とメイド。
見つかるのは良い事ではないだろうから見つかる前に立ち去ろうとした……けれど。
「ぶぅ!!」
魔兎に見つかってしまった。
私を見ながら跳ねる。それにつられて、少女たちの視界に私が入ってしまった。
脱兎のごとく!!
私は一目散に逃げだした。
ピコン!!
ある程度馬車から距離を取ったところで、いつもの音が頭の中に響く。
シュン!と出てくるステータス画面
そこには能力が一つ追加されていた。
[
[種族]:魔魔兎(中位種)
[加護]
『兎神之寵愛』_全能力値に成長補整(大)・特殊耐性・超回復(夜間時)・身体能力強化(大)(夜間時)
[
『
『
『鑑定』_情報解析・情報分析
『突貫』_突貫(突進時貫通補整(大))
『氷魔法(低級)』
『感覚強化』_五感の継続的強化
『敵性感知』_敵性意思を持つ生物を感知
『大食らい』_食欲増加・胃袋拡大
NEW!!『同胞の絆』_兎種の魔獣との
[
『物理』lv2
『貫』lv9(最大補整)
『斬』lv1
『魔法耐性』
『火』lv1
『闇』lv5
『氷』lv2
『精神』lv9(最大補整)
―――――――――――――――――――
『たすけてくれてありがとー』
先ほどの魔兎であろう可愛い声が頭の中で響いた。
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