第10話 新天地へ



ステータスに新たに[能力スキル]が増えていた。


『同胞の絆』_兎種の魔獣との精神感応テレパシー(遭遇した兎種に対して強制発動)


さっき頭の中に響いた声は幻聴じゃなかったみたいだ。

同じ兎に限られるがテレパシーが出来るようになったらしい。

しかし、兎種とあるけど魔兎や魔魔兎以外他にどんなうさぎがいるのだろうか。


新しく手に入った能力の使い方を考えながら私は本来昨日でお別れするはずだった寝床に戻る。

幾ら強くなって余裕になったと言っても戦闘後は精神的に疲労してしまうものだ。

そういうときは住み慣れた巣に帰り、眠るのが一番だ。


私は巣穴の中に入ると腰を下ろし身体を丸めまた眠りにつこうとしたが。


少しばかり思案した結果。

重い腰を持ち上げ外に出た。


やっぱ行かないと……だっるいけど。

今寝たら絶対に明日も行かないそんな情けない自信が私にはあった。



非常にめんどくさい。

非常にめんどくさい。

がしかし、今のこの環境下でめんどくさいで行動しないのはまずいと思う。


強くなって安堵しているがこの場所は危険だ。

何故なら今日も人にあったからだ。

この場所は何度も人と遭遇する程に人の生息圏と密接している。

恐らく人が暮らす町や村が近くにある違いないだろう。


今回助けた人間や前回見逃した冒険者達。

私を知る人間が増えてきている。

彼等が私の存在をどう認識しているか分からないが普通ではないとは思われている筈だ。

それがどう転がるか。この世界の人間界を知らない私には判断出来ない。

けれど生物上で人が最も恐ろしいものだと人であった私は良く知っている。

だから、そのリスクを避けるためにも新天地にめんどくさいが行くべきなんだろう。


そしてその行動に移すのは今しか出来ない。

また、明日行くだなんだと先伸ばししてしまっていたらいつまでも動けない。

私はそういうダメ兎だ。

よし、こことは本当におさらばだ!


私は三ヶ月間いた巣穴を離れ更に森の山奥に進むことにした。


結構な時間が経過した。

日が昇り、それがちょうど真上に位置しているのから見て正午あたりだと思う。

時間で言えば10時間以上は歩いているが未だ疲労は感じない。

夜の時間が長かったとはいえ、この身体自体の持久力もだいぶ成長したようだ。


山奥に進むに連れ魔物の種類は少しずつ変わっていっていく。


代わり映えしない魔物を倒し続けてきているが他に目新しい魔物はいないものか。


そう少し気が抜けていたタイミングで突如石が頭上から降ってきた。


咄嗟にぴょんっと跳び跳ねる。


敵だっ!


上を見上げ即座に鑑定を行う。

眼に映るのは紅い体毛に覆われた猿がいた。


――――――解析


[――]


[種族]:剛火猿中位種

[状態]:良好

[加護]

[能力スキル]

『投擲術』lv4

『警戒態勢』

『攻撃態勢』


[兎への敵性]中


身体は2メートルを超える大猿は舐めたように上から此方を見下ろし、にやにやと笑いながら石を片手に持っていた。



私と同じ中位種だ。

しかし、[兎への敵性]中、それにあの舐めた態度からして此方を遊び道具にしか思っていないようだ。

まあ、此方は兎。

舐めるのは分かるが舐められているのは不快だ。


よし、やってやろうではないか。


「キキィ」


剛火猿は笑いながら石を投擲してくる。

その速度、精度ともに一流のものではあるが生憎私にはその程度では当たらない。


私は跳躍し避けながら木を垂直に駆け上がる。

予想外の動きに剛火猿は不思議そうに首を傾げるが逃げる様子はない。それどころかまだ座り込んだままで警戒した様子すらもない。


油断しているなら『突貫』で一撃だ。

距離を詰め高速で踏み込み剛火猿に突進をかます。


しかし、呆け面していた筈の剛火猿は直撃の寸前で身体を起こし跳び跳ねる。

その瞬発力は私の突進の速度を上回る。

まるで予め私の一撃を警戒していたかのように冷静に跳び避けた剛火猿にたいして警戒レベルをあげる。


油断していない?誘われた?


自分のミスを悟り、相手が避けた先へ視線を向けるが此方へ追撃する素振りを見せなかった。


警戒し過ぎかな?


しかし、その直後予備動作すらなく剛火猿は手に持っていた石を私の進行方向に撃ち放っていた。


やばっ


咄嗟に氷の矢を生成し撃ち放つ。

なんとか魔法の発動が追い付き直撃を防ぐ。


予想より強い。

本気でいかないと。


私は氷の矢を幾重にも生成する。

その数20本。


木の上での戦闘は二足歩行で移動慣れしている相手の方が有利だろう。

だから私は態々相手に合わせて戦うつもりはない。


氷の矢が雨のように頭上から降り注ぐ。

その私の魔法を見て流石に剛火猿も危険だと判断したのかにやけ面が消える。


しかし、もう遅い。


豊穣之祝福シュトリアハイム』を発動し、剛火猿が乗っている木に『生命』を付与する。


『捕らえよ!』


私の命令に従うように木々か蠢き、後ろに飛び退こうとしていた剛火の脚を捕らえる。


「キッ!?」


驚くような声をあげる。


残念。さようなら。


無慈悲に降り注ぐ氷の矢が剛火猿の身体を貫いていく。


「ギキィ__」


断末魔と共に落下していた剛火猿を確認して私は下に飛び降りる。

戦ってみた感想は思ったよりこの森の魔獣は強い。

これが単独で行動していたから勝てたが複数で活動していたら苦戦を強いられるだろう。


少しばかりこれからの先行きに不安を覚えながら、剛火猿の魔核をかじるのであった。



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