第7話 リベンジデスマッチ



満月が私の瞳に写る。


とても奇麗で、私に力を与えてくれる。

そういえば、この世界の満月率は高い。


確率操作が自動的に働いているのか、そもそもこの世界は満月になる可能性が高いのか。

星に関しては詳しくないから、よくわからない。


考えないことにしよう。


魔核を喰らう。

魔核もゴブリンのものともっと強い魔獣じゃ味は違う。

どれも美味しいけど、やっぱり強い魔獣だとその分美味しい。


そんな魔核ソムリエ兎になりそうな今日この頃。


3ヵ月程食べてきたけど、もう容易にはランクアップのような現象は起きない今日この頃。

ステータスには現れない経験値的なものがあるとしたらここらの魔獣だと打ち止めなのかもしれない。


もしくは、貰える経験値が微々たるものだから数をそろえなければいけないか、だ。


考えるのは別のアプローチ。

私が二度目の生を得たこの森を抜け、奥に見える山へ向かうこと。。


恐らく、この森に生息する魔獣は弱い。


冒険者風な人等の発言からレッサーデーモンを狩るのに苦労したらしい、他にも何人か冒険者に会ったけど、昼でも余裕で逃げ切れる程だ。


ここ3ヵ月の間でも、レッサーデーモンより強い魔獣は滅多に見たことはなかった。


この森で強かったの金剛熊。


金色の毛並みの4m程の熊。

エンカウントした時は見た目から死を覚悟したね。

うん。エンカウントしたのが夜の満月時で本当に良かった。


うーん。と考える。


この森の奥へと進んでいくか。

ずっと見えている広大な山。

肌で感じるピリピリとした嫌な感じ。


魔兎の時は近寄ることはもう考える事もしなかったけど、魔魔兎へ進化した今の私なら、なんだかイケる気がする。

兎にも角にも、この森で今の私の強さならぐーたらと過ごすことは可能かもしれない。


……けれど。

もし、もっと強い何かが襲ってきたら?


魔法を使いこなす超強い人間や、大きくて凶暴な魔獣。


この世界の仕組みを知らずに、現状で満足してぐーたらモードに移行するのは、正直怖い。


現世でだって、衣食住が完備して裕福な家庭でお前育ったからこそ最低限人間社会から脱落しないような惰性で過ごせて来てたんだ。

この世界では私の地盤となるものは存在しない。


兎神様の加護だって、もっと強化しないと万全ではない筈だ。


ならば、私のとる選択肢は自ずと決まる。



怠いけど、新境地へ。



真っ白毛並みの紅目兎は、そのまんまるな輪郭で歩き出した……瞬間だった。


『敵性感知』

私の頭に直接その文字が浮かんだ。



「!?」



悪寒を感じた私は直ぐにその場を飛びのいた。

飛びのいて、正解。


私がついさっきまで居た場所には、鋭利な氷塊が突き刺さっていた。


「あ、この魔魔兎。進化してるけど前の魔兎かな」


声が聞こえたほうに振り返る。

この声には聞き覚えがあった。


瞳に写るのは、3か月前に私を夜ご飯にしようとした冒険者の少女。

その後ろにはおなじみの仲間三人。



――――――解析



[リナ]

[種族]:人

[職業]:冒険者―魔法使い

[状態]:良好

[加護]:『雪の加護』_氷魔法強化(小)

[能力スキル]

『氷魔法(中級)』

『魔導強化』_魔導強化(小)・魔力回復(小)

[兎への敵性]大


[ガイド]

[種族]:人

[職業]:冒険者―斧使い

[状態]:良好

[加護]--------

[能力スキル]

『剣術』Lv1

『小剣術』Lv2

『斧術』Lv3

『健康』

[兎への敵性]大

――――


[ミーナ]

[種族]:人

[職業]:冒険者―弓使い

[状態]:良好

[加護]--------

[能力スキル]

『弓術』Lv4

『俊足』Lv2

[兎への敵性]大

――――


[タール」

[種族]:人

[職業]:冒険者―剣使い

[状態]:良好

[加護]--------

[能力スキル]

『剣術』Lv3

『解体』Lv4

『毒学』Lv1

『採取』Lv2

[兎への敵性]大



『鑑定』で一通り解析したところ、やはりあの時の4人だった。

あの当時よりも装備も上等のものになっていて、能力も上昇した形跡がある。

あと、あの時見えなかった職業欄がつ追加されてる……私も成長したのかな。


「はははっ、兎にリベンジだなリナ」


「うるさいガイド」


「今日こそ兎鍋だな」


筋骨隆々のガイドにからかわれてリナは不機嫌な表情を私に向ける。

この人たちの中ではまだ私は狩られる対象らしい。

……まぁ、当然だろう。


魔魔兎になったとはいえ、この森に潜んでいる以上低級の魔物なのだ。

この森は低級冒険者の初心者コースみたいなところなのだろう。


しかし、やっぱりムカつく。

私に氷塊を放りながら、奴らは楽しく談笑しているのだ。

一方的な殺意に、私の沸点が煮えたぎる。


と。


いい匂い。

ふんふん、と鼻を掠める匂いに私はその出所を辿る。


眼鏡をかけた少年タールが腰に掛ける鞄の中。

美味しそうな魔核の匂いをむんむんに放出させている。


この匂いは嗅ぎ覚えがある……そう、金剛熊の魔核。

この森で一番おいしい金剛熊の魔核!!


「今日はやっと金剛熊のつがいを仕留められたんだ。兎鍋でパーッとやりてぇな」


「うるさいガイド。今度こそ魔魔兎は私が仕留める」


「ライバル登場ね」


「ミーナもうるさい」


談笑して。

まるで、遊戯みたいに楽しく私を狩ろうとしてくる。


むむむ。

人と闘り合うのは面倒くさかったからまた避けようと思ったけど、金剛熊の魔核を持っていると知って事情も変わった。


私を狙ったこと、後悔させてやる。

今は満月。私のベストテンション。


私の今の力を試すいいチャンス。


「あの時はいきなり植物が成長しだして逃がしたけど、今日は逃がさないから。氷壁アイスウォール


リナは呟くと、右手の平を私に向けた。

私の左右後ろに氷の壁が形成されて退路を断つ。

そして背後に無数の氷の矢が形成された。


前の時よりもがっしりとした氷の壁で、氷の矢の質も上がっている。


強くなったね、とうっかり目に見えてわかる成長にほんわかした気分になるが即座に頭から消し去る。


氷の矢アイスアロー


少女の言葉で勢いよく氷の矢が発射された。

おそらく、この手法は魔兎、ひいては魔魔兎の一般的な狩猟方法なのだろう。

確かに、私が普通の魔魔兎だったらこのレベルの人間達に遭遇した時点でその命はないだろう。


でも、私は普通の魔魔兎じゃない。


私は氷の矢に向かって駆け出して、心の中で言葉を唱える。

魔法行使 『氷のアイスアロー


まったく同じ本数の氷の矢を顕現させて、迎え撃つ。


リナの矢と私の矢。

一つ一つがぶつかり合って氷の結晶となって砕け散る。


「うそ!?魔魔兎が魔法!?」


リナが驚くと同時に、後ろの3人も目を見開く。

彼女等が日々見下している魔魔兎が魔法を使うなんて思いもしなかったのだろう。


リナが啞然に取られている隙に彼女の懐に潜り込み、思いっきりタックルを決めた。


「うげ!?」

「うっ」


リナは間抜けな声を上げて思いっきり吹き飛び、ミーナを巻き込んで木に激突した。

気は失っていないようだけど、リナとミーナは痛みに蹲る。


「この兎野郎が!!」


そこは流石と言ったところだろう。

ガイドは即座に背負っていた斧に手をかけて私目掛けて振り下ろす。


私はその斧の軌跡を見て。


夜見之祝福ルーナフォルト』_並列思考・思考加速


スローモーションの世界でその斧を華麗に避けて。


「がっ!?」


そのままガイドの顎目掛けてタックル!!

ガン!!と鈍い音がなってガイドは仰向けに倒れ込む。


「ガイド!!くそっ、なんなんだこの兎は!!」


最後に残ったタールは剣を引き抜いて駆け寄ってくる……が。


豊穣之祝福シュトリアハイム


彼の周囲に生えている草を急成長させて、拘束する。

生命を宿らせた草木も、若干だけど操れるようになったのだ。


と、言っても。

操ると言っても、草にお願いする形で複雑な命令は出来ない。

今回したお願いも単純。タールを拘束して。ただそれだけ。


「うわっ!!また草木が!!なんなんだよ!!」


手足に絡まる草を必死で剣で斬ろうとするが、それに草が怒ったのか手を締め上げて剣を落とさせる。

うん、意思を持ってる草なんだから斬られるのは嫌だよね。

……嫌なのかな?わかんないや。


ついでに、リナ、ミーナ、ガイドの拘束もお願いする。


もこもこもこ、と草木ちゃんたちは私の下に集まってきて私を乗せる台を形作ると私を持ち上げた。


眼下。


「ッなに……なんなのあの兎」


「げほッげほッ、これ、あの兎が?」


「いてぇ……いてぇよぉ……」


「なんなんだよ……なんなんだよこれ……」


満月を背に紅い瞳で見つめる私に、拘束されたリナ、ミーナ、ガイド、タールは震えていた。

楽勝だと思っていた私に、これだけコテンパンにされたら怖いだろうね。

得体のしれない何か。幽霊に遭遇した子供の用に震える4人。

可哀そう……とは思わないよ。だって私殺されそうになってるんだからね。

命を取ろうとしないだけ、感謝してほしい。


「ぶぅ」


そうだ!!と私の鳴き声が漏れる。

私は草から飛び降りて、タールに近寄った。


「く、くるなぁ!!」


ビクビク!!と震えるタール。

いやいや、君に用はないんだよ。


私はタールの傍に行って、彼の鞄を噛みちぎって中身を散乱させる。

散乱した中身。

その中から私はお目当てのものに駆け寄った。


そう。金剛獣の魔核。


一度食べたけど、あの味は絶品だ。

なんとも言えない辛味にジューシーな噛み応え。

私の一押しの魔核。


「あ、あ、ダメ。それはやめて」


「そ、そうよ!!お願い!!何日も頑張って折角倒したのよ!!それが無くなったら昇格が出来なくなってしまうわ!!」


私がしようとしていることに何となく察しがついたのか。

リナとミーナが涙ながらに懇願してくる。


金剛熊2体に何日も……うん、頑張ったんだと思う。

涙目でやめてやめてと懇願するリナとミーナ。

いてぇいてぇ、と呟き続けるガイド。

ひぃひぃ、とぶるぶる震えたままのタール。




私に楯突いた事を後悔するがいい!!



私は金剛熊の魔核を4人の阿鼻叫喚が入り混じる中で、奇麗に喰らい尽くしお腹を満たしたのだった。



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