第5話 力比べ
はぁ、はぁ、はぁ………
脱兎のごとく逃げ出した私。
背後を見てもあの4人が追ってくる気配はない。
『
尊い草木の犠牲を背に、私は何とか命を繋ぐことが出来た。
なぜ、私がこんな目に。
だるすぎる。
兎生二日目にして危うく冒険者みたいな人達の夜ご飯として消費されるところだった。
恐らく、白兎のソテーなんて名づけられて変わり果てた私が食卓に並ぶのだろう。
…………許せない。
と、憤って見ても私は兎。
せいぜい、ぶぅ、と鳴いてダンダンと跳ねる事しかできないだろう。
この世界では兎の地位は低い。
あたりまえのこと。
魔兎はそう、ゲームで言うゴブリンとかスライムとかと同列に扱われるような魔獣……いわば初心者のレベル上げの為に位置するチュートリアル魔獣みたいなものなんだろう。
はぁ、と私はため息を吐く。
確かに私は夜間では兎神様の加護によって通常の魔兎よりは強くなれる、
実際、まだ蜥蜴にしかこの力を試していないから自分の強さがよくわからない。
さっきはまだ夜になる前だったし多勢に無勢、それに魔法なんかも飛び出してきたのだから。
私が逃げの一手を選択したのは間違いじゃない筈。
空を見上げる。
この世界にも月があるのね。
奇麗な満月が私を照らしていた。
『兎神之寵愛』
『
『
兎神様の祝福であろうこの三つの権能。
確かに、普通の魔兎にしてみれば恵まれている。
兎界だとチートとも言える存在だろう。
私何かやっちゃいました?と他の魔兎に言えもするだろう。
でも、世界全体で見たら私はまだ下層に位置するだろう。
だとすれば、ぐーたら安寧生活なんて夢のまた夢。
他者を圧倒する力を手に入れるか。
強者の庇護下に入り、堕落を貪るか。
今の私に出来るのは前者。
魔兎を見たらすぐに飼ってくる人類に対して、私を愛玩動物対象として飼って甘やかしてくれる人にエンカウントするまで賭けを続けるのは分が悪すぎるし、正直ダルい。
ならば。
私は兎神様を信じる。
だって兎神様とは言え、神様の端くれだよ?
きっと彼……彼女?のくれた権能がこの程度の筈はないし私が真価を発揮できていないだけなのだ。
それに、後から追加された能力『鑑定』
蜥蜴を倒したら手に入れることが出来た能力。
仮説を立てるなら、蜥蜴を倒した時に得たボーナス。
つまりは、私はまだまだ成長する、強化される可能性があるということだ。
私は、先ほどの4人の言葉を思い出す。
その中で出てきた一匹の魔獣。
レッサーデーモン。
あの4人よりも弱い魔獣。
今の力を試すにはちょうどいいだろう。
私は、にやり、と笑う。
正確には少し口元が動いただけだけど。
私はレッサーデーモンがどこにいるかわからない。
でも、今は夜で満月時。
この権能を試すにはいい機会だ。
私は足を強く踏みしめピョンっとジャンプ。
脳内で権能の名を叫ぶ。
『
さっきの四人はステータスの疲労も少なかった。
だから、ここの近辺にレッサーデーモンはいると踏んでの確率操作。
要は、エンカウント率を上昇させた……つもり。
つもり、というのはこの確率操作の能力の詳細が全く不明だから。
とりあえず……で使ってみたのだけど……。
シーン、と森の中は静寂に包まれる。
うーん、失敗かぁ。
私は肩をがっくり落とす。
使い方が悪かったのか、そもそもの能力として対象外なのか。
いつまで待っても聞こえるのは木々の静寂。
仕方がない、と私は今日の寝床を探しに行ここうと決めた――――――刹那。
「ぶぅ!?」
突如襲い来る激痛。
横なぎに吹き飛ばされて、私は木に激突した。
バキッ!と私の体の中から聞こえてはいけない音が響き渡った。
痛い、痛い、痛い。
私の脳内が酷い激痛で埋め尽くされる。
でも、かろうじて衝撃のあった方へ、私を殴り飛ばしたであろう存在の方に視線を向ける。
「ギギギィ」
そこには、紅い身体に牛のような顔。
胴体は人間をもう少し太らせたような四つん這いの化け物が気味悪げに笑っていた。
――――――解析
[――]
[種族]:レッサーデーモン
[状態]:良好
[加護]
『悪魔眷属』_腕力上昇(大)・防御UP・周囲への威圧・硬質な鎧
[能力スキル]
「兎への敵性」大
「ッ!?」
レッサーデーモン!!
どうやら、
『
確率は操作され、めでたくレッサーデーモンは私の下へと舞い降りて……。
でも、不意打ちはやめてよ……。
「ぶぅ」
気が付けばもう私に痛みは無くなっていた。
あれだけ痛かった身体も、もう全快。
折れていた骨も、一呼吸の間に治っていた。
『兎神之寵愛』――――超回復(夜間時)
うん。
多分これ、即死さえしなければきっと大丈夫なくらい回復力が上がる。
「ギギギィ……」
レッサーデーモンは私を仕留めたと思っていたのだろう。
けろり、と立ち上がった私を見て困惑の表情をしていた。
悪いね、私は兎神様に愛された特別だから。
私はレッサーデーモン目掛けて駆け出した。
レッサーデーモンは雄たけびを上げながら私をその前足で押しつぶそうとしてくる……でも。
『
加速された思考の中で、レッサーデーモンの動きはスローモーションのようにゆったりと流れた。
私は攻撃を余裕で躱して、懐に潜り込んで。
『兎神之寵愛』――――身体能力強化(大)(夜間時)!!
思いっきり兎タックルをかます。
ドン!!とレッサーデーモンは空へと打ち上げられて、そのまま地面に落下した。
ビクビク、と痙攣するレッサーデーモン。
ふむ。と私は考える。
もしかして私は思ったよりも強い……?
ただ相性の問題かもしれないけれど。
夜間限定だけれど。
私はもしかしたらさっきの冒険者みたいな4人組よりも強かったのかもしれない。
ピコン!!
そんなことを考えていたら、『鑑定』をゲットした時と同じ音が脳内に鳴り響いて。
再びシュン!と渡すのステータスが目の前に表示された。
______________________________
[
[種族]:魔兎(劣種)
[加護]
『兎神之寵愛』_全能力値に成長補整(大)・特殊耐性・超回復(夜間時)・身体能力強化(大)(夜間時)
[
『
『
『鑑定』_情報解析・情報分析
[
New!!『物理耐性』lv3
『貫』lv9(最大補整)
『魔法耐性』
『火』lv1
『闇』lv5
New!!『氷』lv5
『精神』lv9(最大補整)
地味な強化……。
私は期待していた分、心の中でため息を吐いた。
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