第9話

「で、どこに向かうんです?」


「ドラゴンムカデは、ここから東に行った森のなかにいるらしい。なんでも、原因不明の狂暴化によって、近隣の自然を焼き尽くしているそうなんだ。ギルドから依頼が出ていたのはそういうわけだね」


 そういうと、キリさんは地図を取り出し、目的地を指さした。


「ここまでは遠い。着くのは夜になるだろうな。私は暗視のポーションがあるから問題ないが」


「え、目的地ここだよね?」


「ん? そうだが」


「ここなら走れば20分で着くと思うけど」


 俺がそういうと、キリさんは変な顔でこっちを見てきた。


「キリさん、どうしたの?」


「いや、ここまで20分なんて、無理に決まってるだろう」


「あれ、キリさん足遅いんだ。じゃあほら、乗って」


 俺が背中に乗るように促すと、キリさんは「え、真面目に言っているのか?」と、困惑気味だ。


「うん。そうだけど」


 キリさんは、疑うような目でこちらを見ていたが、渋々といった感じで背中に乗ってくれた。


「ん、キリさん思ったより重いね」


「消し炭になりたくなかったら、早く走れ」


「は、はい。じゃあ、しっかりつかまっててね!」


 背中から殺気を感じながら、俺は地面を蹴って走りだした。


「ひゃあああああ!!! は、速すぎる!!」


「ちょ、声出すと舌噛むよ!」


「少年、靴にエンチャントでもしてるのか!? これ、馬に乗ってるときよりずっと速いぞ!」


「してないよ! てか、マジで喋んない方がいいって!」


 キリさんは、「これからは少年じゃなくて、カナタさんと呼ぶか……いや、カナタ様……?」などと、意味の分からないことを呟いている。そんなに早いのかな、これ。


     〇


「はっ、カナタくん! まだ距離はあるが、前方によろいムカデの群れを確認! ドラゴンムカデが近い証拠だろう!」


 しばらく走ると、双眼鏡を覗いていたキリさんが報告してきた。なんでも、エンチャントで性能を強化した双眼鏡らしい。

 受付のお姉さんも少し言っていたが、エンチャントというのがなんなのかいまいち分かっていない。後でキリさんに聞いてみよう。というか、呼び方はカナタくんに落ち着いたんですね。


「面倒だし構う必要もない。迂回してやりすごそう」


「いや、このままで大丈夫」


「いや、別に構う必要ないぞ!?」


「別に、敵にすらならないし」


 剣を抜き、戦闘に備える。木刀よりは全然いいだろうが、剣の切れ味チェックといこう。


「ちょ、カナタくん! 10匹前後いるから! 迂回した方が楽だってば!」


 よろいムカデの姿が見えてくると、なるほど、確かに多いな。図体が大きめなせいで、壁にすら見える。


「大丈夫だって、ばっ!」


 よろいムカデに認識されないように、一気に加速して距離を詰める。


 そして、間髪いれずに装甲に一閃。難なく装甲ごと切ることに成功した。木刀よりも重いが、流石に鉄の剣だ、刃の通りが抜群にいい。


 切れ味に感動していると、他のよろいムカデが俺を見て戦闘態勢に入っていた。油断していたが、別に敵ではない。

 必要な分だけ切ればいいと思ったけど、試し切りだし、群れ全部いっとくか!


     〇


 そろそろ目的地だということで、キリさんを背中から下ろすと、彼女は息切れしていた。


「ちょ、なんでそんな疲れてるの」


「いや、カナタくんが色々規格外で……」


「何が?」


「いや、自覚ないのか!? 足の速さも剣の腕も、駆け出し冒険者レベルじゃないんだよ全然! よろいムカデを剣で|一太刀(ひとたち)って、相当ヤバいからね!?」


 そういえば、受付のお姉さんも俺の言ったことを聞いて驚いていたな。


「……あ、あれ? もしかして、俺って、普通じゃない?」


「はぁ、驚きすぎてもう呆れた。君に聞きたいことが山ほどできたよ。ま、今はそれよりドラゴンムカデだ。ほら、あれがドラゴンムカデだよ」


 周りに木が焼けているような跡は無いけど、と思いながら、キリさんの指さす方向を見ると。


「で、デカっ……」


 なぜ気付かなかったのだろう。そこには、森の木を優に超える大きさの、生き物の姿があった。

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