第4話

 さて、まずは母さんの言った通り、ティアラに向かわないとな。

 ティアラまでのルートは2つある。モンスターの出ない安全な、歩いて7日で着くルートと、モンスターは出るが歩いて3日ほどで着くルートだ。後者なら走れば4時間くらいで着くくらいだろう。


     〇


 ……もうティアラに着いてしまった。


 モンスターも、金属質の装甲を持つデカいムカデ一匹としか会わなかった。しかも、そのムカデですら、見掛け倒しの柔い装甲しか持っておらず、木刀で一閃できる程度には拍子抜けだった。

 今まで夢見てきた町が、行ってみるとこんなに身近なものだったとは、嬉しいような悲しいような。


 ティアラは、町の入り口からとてつもない賑わいを見せていた。元居た町しか知らない俺からすると、こんな喧騒は生まれて初めて味わうものだ。

 並んでいる露店や屋台は、眺めているだけでも満足できるくらいに新鮮なものだ。

 って、うわっ、なんだあれ。串に肉を突き刺したものが、大量に並んでる! 肉汁やべぇ……めっちゃ食いてえ……。


「はぁ、これが都会かぁ……」


 思わずそう呟いてしまい、近くを歩いていたご婦人にクスッと笑われてしまった。顔が熱くなる。

 恥ずかしっ! 俺はおのぼりさんか! いや、実際おのぼりさんなんだけども!


 ともかく、まずはギルドに向かおう。戦闘経験の浅い今の俺では、絶対に魔王に勝てない。一刻も早く冒険者になって、経験を積んで……。


「よぉ兄ちゃん! 冒険者かい?」


「んぇっ!? ああ、はい、今からギルドに冒険者登録しに行こうとしていて」


 声をかけられた方を見ると、さっきの肉の串焼き屋の店主が、俺の方をニヤニヤしながら見ていた。


「そーか、じゃあ、遠くから来たんだな? こういう賑やかな所、初めてだろ」


「え? はい、そうですけど、なんでです?」


「やっぱりな。さっき兄ちゃん、この串焼きをキラッキラした目で見てたから、そうなのかなって思ったんだよ」


 ガハハと笑う店主に、思わず赤面してしまう。俺、そんなに目輝かせてたのか!


「す、すみません! すごくおいしそうで、つい!」


「いいんだよ。それより、ほれ、何本買うんだ?」


「え?」


「買うんだろ? 串焼き。あんなにいい目で見てたし」


「い、いえ。あまり持ち合わせがないので」


 俺は今、冒険者ライセンスの登録料の1000エーンを含めて、あまり持ち合わせがない。

 串焼き一本すら買えないレベルではないが、冒険者の稼ぎがどのほどか分からない以上、不用意に金を使い過ぎるのは危険だ。この串焼きはあくまで嗜好品。必須なものではない。


「そーなのか? 見ろよこれ、美味そうだろ~? 肉汁が兄ちゃんに「食べてくれ~」って言ってるぜぇ?」


 店主はそう言って、焼き立ての串焼きをホレホレと見せびらかしてくる。

 肉汁が蠱惑的な魅力を演出している。焼き立ての肉の香りが脳を刺激して、まぁ、一本くらいならいいんじゃないか? という気にさせてくる。


「……じゃあ、一本だけ。何エーンですか?」


「おっ、まいど! 一本4000エーンだ!」


「4000エーン!?」


 明らかに高すぎる! この店、ぼったくりなんじゃないか? ……まぁ、確かにその値段に見合った美味さはありそうだけれども。


「う、うーん、ちょっと、高すぎ……」


「でも、兄ちゃんは駆け出し冒険者だからな! 出血大サービスだ! なんと、今だけ一本3000エーン!」


「せ、1000エーン値引き!?」


 いや、冷静になれ、カナタ。それでも高いだろう、明らかに。抑えろ、抑えろ俺。一本、いや、あわよくば五本くらいは食べたいくらいだ。だが、今使ったら今後どうなるか……。


「いやっ、まだだな! ここからさらに1000エーン値引き! 半額の2000エーンだ!」


 半、額、だと。


「……五本ください!! 焼き立てで!!!」


「よぉし! まいどありぃ!!」

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