第4話

私たちは転移門を潜り被害のあった村に行った。

「っ」

足が竦んだ。

初めて嗅ぐ、むせ返るような匂い。そうか、これが血の匂いか。

「俺たち近衛騎士が魔物をやる。あんたはさっさと治癒魔法を怪我人にかけろ。終わったら浄化魔法で辺り一帯を浄化してくれ」

「分かりました」

「‥‥・」

ディランの指示に従って私は震える足で何とかまず最初に怪我をしている老婆の元へ向かった。

魔物が出た土地は必ず魔物の瘴気で汚される。そうなると何十年も作物が育たなくなるのだ。でも瘴気を浄化したら今まで通り作物が育つので人が暮らすことはできるのだ。

そうすると食うに困った村人が賊になったりせずに済むので治安維持にも繋がる。

「聖女様、助けてください」

「もう、大丈夫ですよ」

私は老婆の腕に手をかざし、集中する。すると掌が温かくなり光の粒が出てくる。老婆の腕に落ちた光の粒が老婆の怪我を治していく。

地下で何度も練習させられたおかげで本番でもできた。

「ああ、ああ、ありがとうございます。ありがとうございます、聖女様」

老婆は目から涙を流して私の手を掴み何度もそう言った。

初めて人に感謝された(さっきのルルシアのはノウカン)。

「避難所まで連れて行きます」

「私はもう大丈夫です。他の人を見てあげてください、聖女様」

「ですが」

老婆は首を振り、自力で立ち上がり避難所へ向かった。

避難所と言っても村の広場だ。そこに村人が集まっているのだ。今ここにいるのは逃げ遅れた人ばかり。

老人や子供、病人などが多い。

私は彼らに治癒魔法をかけ無理な人は広場まで連れて行った。それが終わったら次は広場にいる人。そして私と一緒に来て、魔物と戦い、傷ついた近衛騎士だ。

どうしよう。かなりキツイ。

私はこっそり物陰に隠れて魔力回復薬を飲んだ。

魔力増幅薬の効果が切れるまで残り三〇分。後は浄化魔法だけね。回復薬も飲んだし、何とかなりそう。良かった。

「おい、済んだぞ。そんなところでさぼってねぇで、さっさと浄化しろ」

物陰に隠れていた私を咎めたディランはものすごく不機嫌な顔をして言った。

さぼっていると思われたのは心外だけど誤解されたままの方がアニスらしくていいかも。

だから私は特に反論せずに瘴気で汚された場所へ行く。

練習でやったように集中して、浄化魔法を使う。

根こそぎ魔力を大地に吸収されている感じだ。かなりキツイ。

この程度、本物のアニスなら楽勝だったんだろうな。それぐらい魔力保有量が多かったから。

まずい、倒れる。

私は倒れまいと唇を噛み締めた。足に力を入れて何とか倒れるのを阻止する。

浄化魔法は何とか成功した。瘴気は全て消えた。

良かった。

「この程度でへばったのかよ。だらしねぇな」

悪態をついてディランは騎士たちの指示を出す為私の傍を離れた。リュウもディランも私に背を向けている状態だ。

近衛騎士も今は私を見ていない。

私は気づかれないように魔力回復薬を飲んだ。そうでないと立っているのがやっとだったから。

「おい、何ちんたらしてんだ。帰るぞ」

「はい」

もうすぐで帰れる。それまで意識を繋げ。今、ここで倒れるわけにはいかない。私は聖女アニス。

私はディランたちと一緒に来た時同様、転移で帰還した。

実は転移門は開いたままなのだ。だから帰りは転移門がなくても帰れる。開けっ放しの門を潜ればいいのだから。

もちろん、門の出入り口には見張りが最低でも五人はついているので無法者や魔物が侵入することはない。

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