第3話
「本当によろしんですか?アニス様らしくない」
私の判断にルルシアは不服そうだ。
私が彼女にキツイ罰を与えるのを楽しみにしていたのだろう。
ネズミを弄ぶ猫のような目をしている。私がよく知っている目だ。
虫唾が走る。
「ああいうのは図に乗らないようにきっつい罰が必要ですよ。ねぇ、いつもみたいに罰しましょうよ」
「あなたはいつから私に指図できる立場になったの?」
少し不機嫌に言ってみるとルルシアは顔を青ざめさせた。目を左右に動かして必死に打開策を考えているようだ。
「そんなに罰して欲しいのならあなたを罰しましょうか。不敬罪で」
「いえ、その。申し訳ありません!」
ルルシアはかばりと頭を下げて必死に許しを乞う。
どうしよう。ちょっとやり過ぎた?
でも、アニスとして疑われないようにもしないといけない。その上で今までの悪行を払拭しないといけない。何とか、心を入れ替えたみたいな感じで。
「今回は特別に許して上げるわ」
「本当ですか!?」
「あら、私の言葉を疑うの?」
「いいえ、滅相もありません。ありがとうございます」
「いいのよ。あなたは友人ですもの」
取り敢えず、ひと段落。
まだ来たばかりで授業も始まっていないのにかなり疲れた。これが一生続くのか。そう思うと憂鬱ね。
でも。
私は窓の外を見た。
いつも格子ごしに見ていた空。
「綺麗ね」
「えっ?」
「何でもないわ」
思わず呟いてしまった。近くにはリュウとルルシアしかいなかった。ルルシアには聞かれていないみたいだけどリュウは分からない。朝からずっと彼の表情が動いたところを見たことがないから。
でも聞かれたところで何も問題はないだろう。
晴天の空が綺麗なんて誰もが思うことだ。
「アニス様、王宮より緊急通信が入りました」
リュウは耳に無線機をつけている。
「魔物が現われ、被害多数」
「分かったわ」
とうとうやって来た。聖女としての初任務。私はアニスに比べたら魔力が全然ない。それも含めてバレないようにしないと。
「直ぐに行くから、あなたは先に行ってて」
私はカバンを持って教室を出た。
慌てて追いかけてくるリュウが見えたので馬車のところで待機しているように言う。
誰もいないことを確認して私はカバンの中に大量に入れていた魔力増幅薬を三本飲んでから馬車に行った。
私が馬車に乗り込むと猛スピードで馬車は王宮に向かって走り出した。
王宮には転移門があるのだ。そこを潜れば、国内ならどこにでも一瞬で行ける。
転移門の前には既に近衛騎士が集結していた。
「へぇ、いつもより早いじゃねぇか。ダダは捏ねなかったのか聖女様」
そう言って一人の男が近づいて来た。
灰色の髪に血のように赤い目をした、まるで獣のような男だ。
「無駄口を叩いている暇があるのですか」
私の言葉に男は驚いた顔をした。
「門を潜って行きますよ。お留守番していたいのなら構いませんが」
私は転移門を潜る為に男の横を通りすぎようとしたら腕を掴まれた。
「一つ伺いたいのですが、あなたは本当に聖女様ですか?」
心臓がどきりと跳ねた。
「あなたはこの国の聖女の顔も知らないの?」
「いいえ、知っていますよ。クソ生意気で慈悲の心を持たない下種の顔ですから」
挑発してる。
アニスならここで怒るのだろう。
どうする、怒るべき。
それとも転移門を潜って先に任務を果たすべき。こうやって立ち止まっている今でも被害は出続けているはず。
どうする。どっちが正解。
「ディラン、今は遊んでいる場合じゃないだろ。俺たちがここに留まれば留まるほど被害は拡大するんだぞ」
リュウが口を挟んできた。
助かった。
ディランは「そうだな」と言って私から手を放してくれた。
そうか彼は王直属の近衛騎士の一人ディラン・チュナイザー。
リュウと交代で私の護衛を務めることがある男だ。聖女の任務の際は必ず付き添い、二人で私を守る役割をしている。
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