第5話

その日の夜は食事すら喉を通らなかった。

取り敢えずベッドで横になって休みたかった。

翌日は体が鉛のように重かった。

夜、食事をしていないので何か食べないといけないとは思ったけど匂いだけで吐きそうになった。

「たかが一度のお務めでその体たらく。本当にだらしがないわね」

「アニス、お前の姉はその程度で倒れたりはしなかったぞ。その顔色の悪さを何とかしろ」

公爵夫妻にお叱りを受けたけど殆ど頭に入って来なかった。

「‥‥・はい」

私は食堂を出ると使用人に命じて少し厚めに化粧を施してもらった。

私の周囲にいる使用人は全員、縁者で事情を知っている口の固いもの達ばかりなのでアニスを演じなくていい分、楽だ。

「お嬢様、お時間です」

「はい」

立ち上がった瞬間、ぐらついた。

「お嬢様、そのご様子では幾らお化粧で誤魔化しても直ぐにバレてしまいます。そうなれば私たちも旦那様からお叱りを受けることになります。なので、くれぐれも気をつけてくださいね」

「はい」

眉間に皺を寄せて使用人が私に注意をした。

本来なら褒められた態度ではないが仕方がない。私はアニスの偽物だから。

私は足に力を入れて何とか邸を出た。

‥‥・最悪だ。

「おせぇよ」

不機嫌な顔でそう言ったのはディランだった。

どうやら今日は彼が私の護衛のようだ。

昨日、かなり不審がられていた。

ずっとではないけど作業中に何度かこちらを見ていた。護衛なのだから当然かもしれないけど。

やりづらい。

私は昨日と同様、何も言わずに馬車に乗り込んだ。

体がだるい。頭痛がする。馬車の揺れがかなりキツい。

私は座席に手を置き何とか倒れないように耐えた。

魔力増幅薬、三本はキツかったかな。ない魔力を無理やり上乗せするみたいな感じで体に負担がかかるから、過剰に服用していい代物じゃないし。

でもそれぐらい飲まないと私の魔力じゃあ聖女の務めは厳しいし。

加えて魔力回復薬も飲んだ。

自然回復が一番良い。私の場合はそんな悠長なこと言ってられないけど。

そうこうしている内に馬車は学校へ着いた。

リュウもどうだったけどディランも馬車の中では私に話しかけては来なかった。ただ、じっと私を見ていた。まるで獲物を見る獣の目だ。

何とか早期に体調を整えないと。

「おい」

「はい?」

「要請だ。魔物が出現した。すぐに向かうぞ」

嘘でしょう。

昨日、要請があったばっかりなのに。それにこんなに体調が悪いのに。

「ぼやぼやするな。行くぞ」

私はディランに腕を掴まれ、引きずられるように馬車に再び乗り込んだ。

転移門を使い、現場に行った後は二人の目を盗んで魔力増幅薬を服用。何とか務めを果たした。

‥‥‥気持ちが悪い。吐きそう。

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