第4話 習うより慣れりょ…ろ。噛んだ。

興味深い話を聞かせてもらったが、割と深刻じゃないか?発現したのが私1人ってのは。つまりそれって、誰かから師事を受けることができないってことじゃん。労働で言ったらマニュアルがないまま現場に放り出された訳だし……。

そもそも、肝心の私たち魔法少女が『なに』と戦うのかを聞いてなかった。

「概念よ、概念。魔法少女になることによって、ウィッ値がちょちょいといじられる。ここまではいいね?その影響で、人間の『負のエネルギー』だとか『負の感情』だとかが可視化されるんだよ。一番軽度なのが疑心暗鬼ぎしんあんき、もっとも危うい、赤信号を通り越してる危険度のエネミーなんてのは、その人それぞれなんだ。例えば疑心暗鬼ですら人によれば最凶のエネミーになりうるし、幽鬼、餓鬼だとかもその人の精神状態によっちゃあ最強になりうる。『病は気から」』だとか『要は心の持ちよう』だとかは私のだいっっ嫌いな言葉だけれど、この場合に限ってはそうかもしれない。言い得て妙だよ。」

そんなものなのか。具体的にはどう戦うんだ?

「脳内にひきずりこんで始末する。敵は概念なんだし、こっちの物理技……魔法もそうだけど、こっちから大きなアクションをしても相手には通用しない。なら自分の概念の中に捕らえてしまえばいいんだ。」

脳内に引きずりこむ……。ますます魔法少女から離れていってる気がする……。

「まあ、慣れるより慣れろ、よ!早速散歩したり散策したりしてきてちょうだい!何か発見があるかもしれないし、ご近所さんたちにも顔を見せなきゃならないしね!」

うむ。確かにそうだ。彼女ももうこれ以上話す気はなさそうだし、この辺りの地図を頭の中に入れるのも一興だ。

「そういえば、魔法少女って言うからには、何か返信をして戦うんですよね。その……、ジャージ?みたいな衣装にはどうやって着替えるんですか?」

「え?普通に服を脱いで着替え直してよ?スッパマンみたいに。」

古いな。今時公衆電話なんて見かけないぞ?まあいいか。トイレかどこか……最悪草むらとかでもいいだろう。かぶれるのが少し怖いが。

「わかりました。じゃあ、お昼ご飯までには帰ってきますね。」

「おう!昼飯はチャーハンだぜ!期待しときな!」

期待しかしない。


そんなわけでジャージを入れたバッグを肩にかけて、特に目的もなくふらふらしていると、仰向けで眠っている少女を見かけた。髪は肩の辺りで切り揃えられているであろう短さで、ほんのり紫っぽい黒髪だった。とても艶やかで扇情的だった。格好はフリフリのスカートを履いており、ファンシーでメルヘンなふんわりしたロリータファッションだった。道端なのでさほど通行の邪魔になったりはしないが、いかんせんこんなところに華奢で目立つ少女を放置しておくわけにはいかないので、様子を伺いながらそっと声をかけた。よほど深い眠りについているのか、反応は返ってこない。その後もそっと揺り起こしたり思いっきりお腹を殴ったりしたが、ピクリとも動かなかった。見過ごせない上、やることもないので公園のベンチに連れて行って、目が覚めるまで付き添ってあげた。そして目が覚めた彼女の第一声が、

「あ!あなたが新しく入ってきたって噂の魔法少女?よろしくぅ!」

だった。

まあわかってた。見た目からもうファンシーだったから察しはついてた。そして脳内に引きずり込むってこういったことなのね……。体無防備じゃん。この間ずっと戦ってたってことかな?聞いてみる。

「そうだよ!ここに運んでくれたのは君だね!私はぜんまい まきだよ!さっきまではずっと概念……邪念かな?どう伝えたものか考えものだけれど、邪念と対峙してたの。その始末が終わったから帰ってきたんだよ!」

元気に応えてくれた。薇さんか。覚えておこう。ところで、彼女も魔法少女なら何か魔法を持ってるはずなんだけれど、どんな魔法を持っているのかな?炎かな?氷かな?風雷かな?わくわく。

「魔法増幅魔法だよ。誰かの魔法、自分他人問わず魔法の質を上げられる魔法。」

「えっ!?それじゃあどうやって戦うんですか?」

そもそもなんだか偏りがすごいな。もっと広く知られた魔法っぽい魔法はないのか。

「普通に殴るんだよ。ほら。」

そう言って彼女が取り出したのは、厚手の辞書と手のひらサイズの球体だった。

「なんです?これは?」

「これはね、普通にぶん殴るための辞書と、衝撃で爆発する最新テクノロジーが詰まった爆薬だよ!所詮あいては概念なんだから、こっちも重さを無視して威力だけ残したり、球の残数を増やしたりもできるんだよ!」

ほえぇ……。身につけていたり所持しているものが脳内のフィールドに反映される感じかな?すごいなぁ。よくわからないや。

「さっき他人や自分を問わず魔法を適用できるって言いましたけど、そんな補助系の魔法なのに一人で戦ってたんですか?」

「それはきついかなー!もちろん仲間はいるよ!その娘とタッグを組んでるんだ!彼女は彼女でまた違った相手をしてるからさ、ちょっと待ってよう!ここが待ち合わせ場所に変更になったってのはさっき伝えたから!」

「わかりました。」

元気だなぁ、彼女。語尾のそれぞれに全部『!』がついてる。魔法増幅の魔法かぁ……。完全にバフよりだよね。私もバフだし。次に会う魔法少女さんは王道の魔法を持ってたらいいな。今のうちに聞いておこうか。

「あのう、今待ち合わせてる魔法少女さんって、どんな魔法を使うんですか?」

「んんん……。えぇと……それはねぇ〜……」

イメージとそぐう受け答えだ。言い淀んでいる。それでもしつこく聞くと、諦めたように教えてくれた。

「まず、彼女の名前からだね。彼女は舞刺まいさし わだちだよ。保有魔法は『駄洒落』その名の通り、ダジャレを叫ぶことによってそれが具現化していろんな効果をもたらす魔法だよ。声の大きさと効果は比例する。ちなみに彼女には通り名があってね。」

大方予想はできる。

「恥を捨てた女、だよ。」

…………。絶句モノだろ、これは。


私は諦めた。ここは私の知るマジカルな魔法少女じゃない。

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転生して魔法少女だウハウハしてたら所持魔法が物理特攻:極UPだったんだが daren-conbrio @daren-8284

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