第104話 新学期(二年生)④

 四月下旬。快晴。

 最高の遠足日和。

 朝から俺と琴美のテンションは上がりっぱなしだった。


「めっちゃいい天気だね!」

「そうだな。最高の遠足日和だな」

「楽しみだな~」

「テンション高いな」

「そりゃあ、そうでしょ! アリスと一緒に遠足に行けるんだよ! テンション上がらないわけないじゃん! 蒼月君もテンション上がってるでしょ?」

「まぁ、そうだな。去年よりは楽しみではあるかな」

「去年か~。懐かしいね」


 琴美が去年のことを思い出してクスクスと笑った。

 俺にとって去年の遠足は良くもあり悪くもある思い出だった。


 四月下旬。

 どんより曇り空。

 午後から雨が降るかなといった天気だった。

 正直あんまり乗り気ではなかった。高校生にもなって遠足って、それに一体何の意味があるのだろうか。担任の先生が言うにはなんでもこのイベントはクラスメイト達と親睦を深めるために行うのだという。

 目立つことが嫌な俺としては興味がないイベントだった。

 しかし、琴美にとってはそうではないらしい。

 入学式の日に俺に声をかけてきて以来、琴美は毎日のように俺のもとにやって来ては一緒にお昼ご飯を食べようと言い寄ってきた。さすがに女性の誘いを無下にすることもできず、俺はしぶしぶそれを受け入れていた。

 そんなこと、クラスメイトが知ったら、俺は殺されるんだろうな。嫉妬に。なにしろ琴美は学年が認めるほどの超絶美少女だからな。

 俺なんかに構ってないでクラスメイトたちと話した方がもっと楽しい学校生活が送れるだろうに。

 今も、俺の隣を歩いて遠足の目的地に一緒に向かっている。

 基本的には出席番号順に歩くように言われているのだが、その辺は緩いらしく仲のいい友達同士で歩いている生徒がほとんどだった。


「なぁ、なんで俺のことを構うんだ?」

「私がそうしたくてしてるんだからいでしょ!」

「ハッキリ言って迷惑なんだけど……」


 学校からずっと視線を集めまくりだし。


「そんな悲しいこと言わないでよ~」


 琴美は頬をぷくっと膨らませて俺のことを睨んできた。

 どんな顔でも絵になるというのは罪だな。

 琴美と俺のことを(ほとんど琴美だけど)見ていた男子生徒がその表情に心を射抜かれたようだった。


「でも、俺なんかと話すより、ほかのクラスメイトと話した方が楽しいんじゃないか?」

「蒼月君って悲観的だよね……」

「そうか? 事実を言ってるだけだけどな」

 

 俺なんかと話していて楽しいやつなんているのかと自分で思うほど、俺はつまらない人間だぞ。相手を楽しませようと思って話すことは苦手だし、そもそも、人と話すこと自体が苦手だ。相手の気持ちを考えるのってめんどくさい。


「いいもん。私は蒼月君と話してて楽しんだから。それでいいの」


 そんな風に言いきられると、さすがに返す言葉がなくなる。

 たった一回だけ。おでんをあげただけの関係。それだけの関係なのに、琴美は毎日のように俺のためにご飯を作って来るし、話しかけても来る。

 不思議だった。

 今も、そんなことをサラッと言うし。琴美は俺のことをどう思っているのだろうか。俺じゃなかったら、きっと勘違いを起こしてるぞ。


「ほら、そんなことより、到着したよ!」


 琴美の言う通り、いつの間にか俺たちは目的地に到着していた。

 一年生の遠足の場所は、地元でも有名な夏になれば蛍の見える公園だった。



 

 

 



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ここまで読んでいただきありがとうございます! 


 二話くらいい一年生の頃の話が続きます。

 おそらく(笑) 


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