第99話 【英彦とアリス編②】

 二年生になる前の春休みのこと。

 突然、アリスがこんなことを言ってきた。

 その言葉はいつものアリスらしくない言葉だった。あの二人の関係を見て羨ましく思ったのだろうか。とにかく、アリスがいきなりそんなことを言い出すもんだから俺は驚くほかなかった。

 その日、俺とアリスはいつものようにデートをする約束をしていた。

 天気がよく、まさに春らしい日だった。

 俺とアリスはあの二人のように一緒に暮らしているわけじゃない。といっても、俺とアリスの家は隣同士だ。徒歩0分で到着する。デートに行く時は基本的に俺がアリスの家を訪ねることになっている。

 今日も俺はアリスの家の呼び鈴を鳴らしてアリスが出てくるのを待っていた。

 

「お待たせ」

「今日はやけに気合入ってるな」

「ダメ?」

「い、いや。むしろ、いい」


 俺はアリスの服装を見てそう言った。

 アリスがどんな服を着ようと俺はそれに口を出したたりしない。そもそも、アリスはダサい服を着たりしない。いつも無難といった感じの服を着ている。だけど、今日は何があったのかアリスはいつもよりも可愛い服を着ていた。

 春らしいピンク色のロングワンピ。しかも裾がフリフリになっていた。


「たまにはオシャレでもしてみようかなって思って」

「そっか。似合ってると思うぞ・・・・・・」

「ありがとう」


 アリスは少し照れていた。

 こんなアリスを見れるのも珍しいな。普段、滅多に照れたりしないからな。アリスは。

 学校ではクールなキャラだし。

 とにかく、今日のアリスはいつも以上に可愛かった。ずっと、心臓が高鳴っている。


「行くか?」

「そうだね」


 今回のデートの目的地は古本市に行くことだった。アリスがどうしても行きたいというので付き合うことにした。俺も読書は嫌いな方じゃないし、何より本を選んでるアリスの顔が俺は好きだった。


「開催場所は知ってるのか?」

「うん。ちゃんと調べておいたよ」

「それはよかった。道案内よろしく」


 到着した場所は私立体育館だった。

 入り口のところに看板があって『春の古本市』と書かれていた。

 

「今年は大規模だな」

「だよね。楽しみ」


 アリスは見るからにワクワクしていた。

 その横顔はキラキラと輝いていた。

 ちなみに、俺とアリスは毎年この『春の古本市』に足を運んでいた。毎年場所が違う。今年は私立体育館というわけだ。

 

「どうする? どこから行く?」

「うーん。迷うから、近いとこからでもいい?」

「もちろん」


 古本市に行くと毎回、読書をする人はこんなにもいるんだなと思う。

 学校の図書室にはそんなに人がいないのにな。不思議だな。

 俺とアリスは近場から古本市を回ることにした。

 アリスは気になった本を次々と俺の持っているカゴの中に入れていった。 

 今年は何冊買うんだろうな。去年は確か二十冊くらい買って気がする。


「あ、これ。琴美が言ってた本だ」

「そういえば、七瀬さんも本を読むんだっけ?」

「うん。図書委員で一緒になって、そこから仲良くなったからね」

「それにしても、あの二人凄いよなー。高校生で同棲って」

「そう、ね」


 俺がそう言った瞬間、アリスに少し緊張が走った気がした。気のせいか。

 その後もいろんなコーナーを回ってアリスは気になる本を入れていった。俺の持ってるカゴには去年よりも多い数の本が入ってる。

 本もこれだけの量になるとかなりの重量だな。俺はカゴを両手で持っていた。


「私も持つよ」

「大丈夫」

「ううん。持つよ。重いでしょ。つい、テンション上がってたくさん入れちゃったから」


 そう言って、アリスはカゴの持ち手を持った。俺とアリスで片方ずつ持つ形となった。

 さすがに、これ以上はやばいと思ったのか、アリスは会計に足を向けた。


「もういいのか?」

「うん。満足!」


 いい笑顔。

 俺はアリスのこの顔が大好きだ。

 古本市を後にした俺たちは、お昼ご飯をファミレスで食べて家に戻った。

 俺の家の前でアリスが立ち止まった。


「じゃあ、またな」

「ねぇ、待って」

「ん?」


 アリスは俺の服の裾を掴んで上目遣いで見ていた。その顔は何か言いたそうな顔をしていた。


「どうした?」

「・・・・・・」


 アリスは大きく深呼吸を二回すると、その薄い小さな口からこう言った。


「私も早く英彦君と一緒に住みたい・・・・・・」

「え・・・・・・」


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