第98話 【英彦とアリス編】
俺には幼稚園の頃からの幼馴染がいる。
名前を平子アリスという。
アリスとは同じ幼稚園で家もお隣ということもあって、毎朝顔を合わせていた。だから、親同士も仲がいい。
そんなアリスとは幼稚園から高校までずっと一緒だ。だから、俺はアリスのことを好きだって気づかなかったのかもしれない。近すぎるほど見えなくなって言うしな。
俺が自分の気持ちに自覚したのは中学生の時だ。
中学一年のある出来事がきっかけだった。
「英彦君。今日、ちょっと待ってて」
「分かった」
いつもはアリスと一緒に帰るのだが、今日用事があるらしい。
それにしても、なんだか浮かない表情だな。
「大丈夫か?」
「え、だ、大丈夫だよ・・・・・・」
挙動がおかしい。いつもなら、こんなにおどおどしてないのに。何か隠してるな。
「まぁ、何があるか知らないけど無理するなよ」
「・・・・・・うん」
アリスが教室を出ていった。
心配だなー。あんな顔久しぶりに見る。ついて行ってみるか。あくまで、幼馴染としてな。
俺は席を立ち上がると、アリスの後をつけて行った。
アリスが向かったのは校舎裏だった。
なんだか、展開が読めてきたな。きっと、アリスはこれから誰かに告白されるんだろうな。
アリスは幼馴染の俺から見ても美人の部類に入る。
そう思っていたら、案の定、知らない男がやってきた。
「お待たせ」
「どうも」
そんなやりとりをしてるところを見ると、男の方は先輩ぽいなと思った。
「呼び出して悪かったな」
「それで、私に用ってなんですか?」
「まぁ、あれだ・・・・・・。こんなとこに呼び出して言うことは一つしかないだろ」
「はぁ・・・・・・」
アリスはどうでもいいと言った感じでため息をつく。
本当にどうでもいいと思ってるんだろうな。
何年も一緒にいたらそのくらい分かる。
それにしても、なんだろう。さっきから胸が痛い。
「平子。お前のことが好きだ。俺と付き合ってくれないか?」
やっぱり、男の目的はアリスに告白することだった。
アリスはなんて言うのだろうか。もしかして、告白を受け入れるのだろうか。
さっきよりも胸がズキズキと痛んだ。
「ごめんなさい。先輩とは付き合えません。私にはすでに心に決めた人がいますので」
「それで、俺が諦めると思うか?」
「諦めてもらわないと困ります」
傲慢な男。
それだけ、自分に自信があるのか。それともただのバカか。
アリスの顔は見えるけど男の顔は見えないからはんとも言えないが、きっと後者なんだろうなと思った。
「諦めるわけないだろ。どうしてもっていうなら、今、その心に決めたやつってのをここに連れてこい。それができたら、諦めてやる。ただし、連絡するのは無しだからな」
やっぱりバカだった。というか、自分勝手。
そんなのいくらなんでも無理に決まってるだろ。そりゃあ、アリスが心に決めた男というのは俺も気になるけど、連絡もなしにこの場所に呼べだなんて、無理難題すぎるだろ。
「すごい、無理難題ですね。でも、分かりました。ここに連れてくれば諦めてくれるんですね」
「ああ、男に二言はない」
「そうですか」
アリスは目の前の男から視線を外し、何故か俺の方を見ていた。うーん。俺がいることバレてたのかな。てか、何で俺を見てるんだ。
もしかして、後ろにその心に決めた人がいるとか?
そう思って、後ろを振り向いてみたが、誰もいなかった。
「英彦君。出てきてくれない?」
「誰だ、英彦って」
「私が心に決めた人です」
えっと、なんか凄いことが聞こえた気がするんだけど。
やっぱり、バレてたんだな。
大人しく出ていくのがいいか。俺は立ち上がって、アリスの隣に向かった。
そこで、初めて男の顔を見たのだが、ふーん。なかなかのイケメンじゃん。
「どうも」
とりあえず、俺はその男に挨拶をしておいた。
「これで、諦めてくれますか?」
「いや、まだだな。証拠見せろ!」
めんどくせ〜。
証拠ね〜。そう思ってアリスを見ると、いきなり唇に柔らかいものが触れた。
えっと・・・・・・。
「これでいいですか?」
アリスは冷静に淡々とした声で男に告げた。その頬はピンク色に染まっていた。
「くそっ!」
男はそんな捨て台詞を残すと俺たちの前からいなくなった。
二人っきりになった俺たちの間には気恥ずかしい空気が流れていた。
当然といえば当然なのだが、だって、俺たちは今・・・・・・。
「な、なあ、さっきのは、本気なのか?」
「本気って言ったらどうする?」
アリスもこんな表情するんだな。アリスは悪戯な笑みを浮かべて俺のことを見ていた。
この時だ。俺がアリスのことを本気で好きだと思ったのは。
そして、一年後。俺たちは恋人同士になった。
なんで、一年後かは、聞かないでくれ・・・・・・。
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