第97話 【葵と雄二編】

 新学期が始まって、私たちは三年生になった。

 新学期と言えば、もちろんクラス替えがある。私たちの学校では廊下にある掲示板にクラス分けの紙が貼られることになっている。それを見て自分が何組七日を確かめると各教室へと散らばっていく。

 その紙の前に私は今立っていた。


「佐伯君は同じクラスだろうか……」


 私が今気になるのはそのことだった。もちろん、仲のいい友達とも同じクラスになりたいけど、それよりも佐伯君と一緒のクラスになれるか同課の方が今は大事だった。


「私の名前、見っけ!」


 草薙葵の名前は二組のところにあった。

 二組のクラスメイトの中に佐伯君の名前は……。


「僕は二組ですか」

「え……」

 

 顔を横に向けてみると、そこには佐伯君がいた。

 今、二組って言ったよね。私はクラス替えの紙に目を戻して二組の生徒を一人一人見ていった。

 下の方に佐伯君の名前があった。


「ほんとだ」

「草薙さんも二組なんですね」

「同じクラスだね。一年間よろしくね」

「こちらこそよろしくお願いします」


 私たちは二人で一緒に二組の教室に入っていった。

 ここから、私は佐伯君、雄二さんに夢中になっていった。そして、気が付けば結婚をして蒼月まで産まれた。 

 それにしても、このころの私は思ってもいなかっただろうな。私がミステリー小説作家になっているなんて。

 そう思ったら可笑しくなった。私が小説家になろうと思ったのは、雄二さんに本を読んでもらいたかったから。この人のために物語を書こうと思っていたら、いつの間にかベストセラー作家なんて呼ばれるようになっていた。

 ほんと変な話。


「何見てるんだい?」

「これ、懐かしくない?」

「懐かしいね。僕たちが高校三年生の時の卒業アルバムだね」

「そうそう。琴美ちゃんが蒼月のアルバムを見てたでしょ、それを見てたらなんだか自分たちのも見てみたくなって押し入れから引っ張り出してみてたの!」

「そうかい。僕も一緒に見ていいかい?」

「もちろんよ」


 私の隣に雄二さんが座った。


「覚えてる? 私たちが初めて会った日のこと?」

「もちろん覚えてるよ。図書館だよね」

「そうそう。雄二さんはあの日、マイナーな本を読んでたよね」

「そうだったね。でも、あの本面白かったでしょ?」

「面白かったよ」


 実は雄二さんと同じクラスになって、あのマイナーな本を貸してもらって読んだ。これ、ほんとにマイナーなのというくらいその本は面白くて、気が付くと私は寝るのも忘れて読みふけっていた。

 その時からかもしれない、私も雄二さんに小説を読んでもらいたいと思うようになったのは。


「まさか、葵さんが小説家になるとは思ってなかったけどね」

「私だってビックリしてるわよ」

「葵さんの一番の読者は僕だから、これからも面白い話を書き続けてね」

「ありがと。私は雄二さんのために書いてるから安心して」


 私は雄二さんの肩にこてんっと頭を乗せた。

 私がどんなことをしても見守ってくれる雄二さんが好き。

 私のことをいつも温かく包み込んでくれる雄二さんが好き。 

 この人出会えてよかったと心の底から思える人。


「あの二人はどんな人生を歩むのかしらね」

「それは、あの二人にしかわからないけど、きっといい人生を歩むんじゃないかな。ここにいる間、あの二人はずっと笑顔だったし」

「そうね。なんだか、昔の私たちを見てるみたいだったわ」


 蒼月と琴美ちゃんの未来が明るいものになるように全力でサポートいてあげよう。

 早く、琴美ちゃんが娘にならないかな~。

 二人が帰った後にそんなことを思う私であった。


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