第92話

 琴美の手作りおせちを食べ終えた俺たちは近くの神社に初詣をしにやってきていた。


「人多いね~」


 白色の着物を着た琴美がそう言った。葵の提案で、琴美は着物を着ていた。着物姿の琴美は美しい。その一言に尽きる。家で、初めて見たときは、ついつい見惚れてしまった。

 神社は三が日ということもあって、さすがに人は多かった。


「毎年このくらいいるぞ」

「そうなんだ」

「琴美がよく行くところも多いだろ?」

「まぁね。私が毎年行ってるところの方が多いかも」

「だろ」


 俺たちはお賽銭の列に並んで順番を待っていた。

 少しずつ、その列は進んでいく。


「二人は、明日帰るのよね」

「そうだな」

「寂しくなるわ~。琴美ちゃん~」


 そう言って、葵が琴美に抱き着いた。


「葵さん。また来ますから」

「ほんとに?」

「はい!」

「約束ね!」


 琴美と葵が約束を交わすと、お賽銭の順番が回ってきた。

 俺たちはお賽銭箱にお金を入れて静かに参拝をした。去年一年の感謝と今年もよろしくお願いしますという思いを込めて。

 お賽銭を終えると、琴美と一緒におみくじを引きに行くことにした。葵と雄二はお守りを買いに行った。


「蒼月君は去年何だった?」

「去年は確か小吉だったかな」

「私は、吉だった。今年は大吉引きたいな~」

「引けるといいな」

「蒼月君は大吉引きたくないの?」

「そこまでかな」

「そうなんだ。そういう人に限って大吉を引くんだよね~」


 そうなんだよね。無欲は大吉よりも強いらしい。

 まぁ、欲がないってのも人生楽しくないんだろうけどな。少しくらいよくはあった方がいいってもんだ。

 おみくじが置いてあるコーナーに到着した。最初に琴美が引くらしい。琴美はお金を入れて、おみくじを一枚手に取った。

 

「せっかくだから一緒に引こうよ」


 と琴美が言うので、俺もお金を入れておみくじを一枚手に取った。


「じゃあ、開くよ」

「うん」

 

 俺たちは同時におみくじを開いた。

 うん。なんだか予想通りだな。俺のおみくじは大吉だった。

 そして、琴美はニヤついてるな。ほんと、顔に出やすいよな琴美は。


「大吉だったか?」

「え、なんでわかるの!?」

「だって、嬉しいって顔に書いてあるから」

「バレたか~」


 そう言って、琴美は自分のおみくじを見せてきた。

 そこには大吉と書いてあった。


「よかったな」

「うん! で、蒼月君はどうだったの?」

「見たいか?」

「見たいに決まってるじゃん。そんなこと言うってことは悪かった?」

「まあ、予想通りってとこだな」


 俺は自分のおみくじを琴美に見せた。


「ほんとに、引くなんて!?」


 琴美は何度か俺のおみくじを見ていた。


「無欲はやっぱりすごいな~」

「だな。自分でもびっきりしてるよ」

「まあ、二人とも大吉を引いたし、今年もいい一年になりそうだね」

「そうだな。なるといいな」


 俺たちは大吉のおみくじを大事に財布の中にしまうと葵と雄二のいるお守り売り場へと向かった。

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