第90話

 琴美の部屋をノックする。


「はーい」


 どうやら、起きてたみたいだな。

 着替えを済ませた琴美が部屋の中から顔を出した。


「おはよう。起きてたんだな」

「おはよ。起きてるよ。というか目が覚めたの」

「そうなのか?」

「うん。素敵な初夢を見ちゃったから!」

「琴美も初夢を見たのか」

「え、てことは蒼月君も見たの?」

「ああ……」


 まさか、初夢が琴美と結婚式を挙げてるところとは思ってなかったがな。

 琴美はどんな初夢を見たのだろうか。


「ちなみにどんな夢を見たんだ?」

「え、聞きたい?」


 琴美がニヤニヤとして俺のことを見ていた。これは相当いい初夢を見たに違いない。


「いや、やめとく」

「え~。なんで。聞いてよ~」

「そんなことより、早くベランダに行かないと初日の出が出るぞ」

「そんなことって~。でも、そうだね。行こう!」


 二人で俺の部屋に向かって、ベランダに出た。まだ、日が出てない朝は真っ暗で冷気が残っていてひんやりとしていた。


「寒いな。大丈夫か?」

「うん。大丈夫」

「調べたところによるとあと数分で日の出らしい」

「そうなんだ。楽しみだな~」


 初日の出って見たことがないから俺も楽しみだった。

 いっつも寝過ごしてしまうから見れないんだよな。


「それでさ~。私が見た初夢なんだけどね」

「ああ」

「聞いて驚かないでよ!」


 琴美は俺の方を見て、ニコッと笑った。


「驚かないよ」

 

 俺が見た初夢に比べたらどんな夢も霞んでしまう気がした。て言ったら、琴美が見た初夢に失礼か。それにしても、こんなにじらすということは、やっぱりいい夢を見たんだな。


「じゃあ、言うよ!」

「どうぞ」

「あのね。あ~。やっぱりはずかし~」

「一体、同んな夢を見たんだよ」


 琴美は顔を少し赤くして白い息を吐いた。


「やっぱり言う。正夢にしたいもんね」

「そんなにいい夢だったのか」

「うん。めっちゃいい初夢だった! だって、私と蒼月君が……あ! 初日の出!」


 そう言って琴美は前を指さした。

 いいところで止められるのは、それはそれできになるだろ!?

 だけど、初日の出も見たかったので俺は琴美が指さした方を見た。オレンジ色に輝く朝日が山の間から顔を出していた。


「綺麗~」

「すごいな。これが初日の出……」

「蒼月君、見るの初めて?」

「うん。初めて見た」

「そうなんだ。初めてを一緒に見れて嬉しい!」

 

 俺たちは肩を寄せ合って一緒に初日の出を堪能した。

 今年はいい一年になりそうだな。

 幸先のいいスタートを見ることができて俺は嬉しかった。


「そうそう。私が見た夢だけどね。蒼月君と結婚式を挙げてる夢だったよ」

「え……」


 琴美のまさかの発言に俺は驚かずにはいられなかった。

 同じ夢を見るなんてことがあるんだな。

 正夢になるといいな。俺は心の中でもう一度、そう願った。


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