第88話

 年越し十分前。

 俺たちは年越しそばを前にカウントダウンのテレビを四人で見ていた。


「今年もあと十分で終わりね」

「そうですね」

「だな」

「そうだね」


 四人で頷き合って、俺たちは年越しそばを食べ始めた。

 琴美が一から作った年越しそばはコシがしっかりとあった。さすが琴美だな。市販のやつとは大違いだ。


「何これ!? 美味しい~」

「ほんとだね」

「ありがとうございます」


 葵と雄二に褒められた琴美は嬉しそうだった。

 

「蒼月君は、どう?」

「ん、美味しいぞ」

「よかった~」


 そうこうしているうちに、テレビではカウントダウンが始まろうとしていた。


「あ、カウントダウンが始まるわよ!」


 俺の家ではこの番組のカウントダウンに合わせて一緒にカウントダウンを言うのが恒例だった。


「5」

「4」

「3」

「2」


 それぞれが一つずつ数字を言って言った。

 そして、最後に声を合わせて、「1」を言って、


「パッピーニューイヤー」


 と、声をそろえて言った。

 テレビの中では新年を迎える花火が盛大に上がっていた。


「あけましておめでとうございます」


 琴美が葵たちに向かって丁寧に頭を下げた。

 

「こちらこそ、今年もよろしくね」

「よろしくお願いします」


 葵と雄二も琴美に丁寧に頭を下げた。


「蒼月君もよろしくね」

「うん。よろしく」


 今年も一年、何事もなく琴美との日々が続きますように。

 俺は心の中でそう願った。

 

「さて、お蕎麦食べて早く寝るか」

「だね。明日は早く起きて初日の出を見ないとだもんね」

「そうだな。晴れてくれるといいな」

「初夢も見れるかな?」

「初夢か~。なんだかんだ、毎年、何を見たか覚えてないんだよな」

「そうなんだ。でも、私も同じようなものかも。あんまり覚えてない」


 だよなっと言って、俺たちはクスクスと笑い合った。

 今年は初夢をちゃんと覚えていることができるだろうか。


「どんな夢みたい?」

「そうだな。暗くない夢じゃなければいいかな」

「私はね。夢の中でも蒼月君に会いたいよ」

「夢じゃなくても会えるだろ」

「だって、初夢に蒼月君が出たら、一年間いいことありそうじゃん!」

「なんだそれ」

 

 なぜか琴美は自信満々にそう言い切った。

 よくわからなかったが、まあ、俺も見るなら琴美が出てくる夢がいいな。

 いいことありそうだし。



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